保健所や保健センターなどの健診の際に母乳をやめるように勧められるので、「母乳のせいでむし歯になるの?」と心配されているのですね。 ご安心ください。母乳中に含まれる乳糖はむし歯の直接の原因にはなりません1)。 むし歯は、食べ物や飲み物の中の主に砂糖(ショ糖)からむし歯菌が酸を作り、歯を溶かす病気です。 母乳だけではむし歯になりませんが、食物と母乳が混じったまま時間がたつと、むし歯になることがあります2)。母乳だけの時期はむし歯がなかったのに、離乳食がはじまった途端にむし歯ができるというのが、これにあたります。 むし歯菌が歯に付着して食べ物のなかのショ糖を食べ、酸を作り、そのまま時間がたつと歯に穴があきます。むし歯の予防で大切なことは、少なくとも1日1回は歯の汚れを落としておくことです。夜間は、唾液が少なくなるために、むし歯ができやすい時間帯です。添え乳の前には、あらかじめ歯をきれいにしておくのがよいでしょう。添え乳の後に歯を磨くのは現実的ではありませんから。 むし歯の程度や進み方は、唾液の量に左右されます。そして歯の質の問題もあります。唾液はむし歯予防に重要な因子で、食渣(食べ物のかす)を洗い流したり、 酸を薄めたり、脱灰した歯の再石灰化(いたんだ歯の修復)を担っています。 むし歯にならないよう気をつけるとよいことの1つに、「おやつや食事をとる時間」と「唾液によって歯が健康な状態を取り戻そうとしている時間」にメリハリをつけることがあります。 砂糖は食事にもおやつにもふくまれており、全くとらないということは無理ですが、砂糖を含むお菓子の代わりに、おやつとしてキリシトール製品を上手に活用する方法もあります3.4.5)。ただし、予防効果が大きいわけではありませんので、過信してはいけません。食後に食べさせても、むし歯の予防効果はありません。さらに、寝る直前に食べさせるような方法は、虫歯の予防効果が無いばかりか将来、肥満につながるような食習慣の獲得につながりかねないため、適切な使用方法とはいえません。 母乳をやめるようにという指導の背景には「成長の過程のどの時期でも決してむし歯ができないような状態を保つ」という発想があります。確かに、歯に食べ物かすがついたまま母乳を飲ませるとむし歯になる可能性があります。しかし一方、母乳育児には「むし歯ゼロを保つこと」以上に大切なことがたくさん詰まっています。 乳歯をむし歯にしないに越したことはありませんが、もしできてしまった場合には、早期に治療しましょう。絶対にむし歯にしたくないのは一生使う、永久歯です。生えてきたら予防を徹底しましょう6)。乳歯がむし歯になった場合には、治療しましょう。そして一生使う永久歯がむし歯にならないようにしましょう。 最近では、母乳育児は歯並び・かみ合わせに良いという報告も出てきました7、8)。歯以外に目を向けると、母乳育児は感染から体を守り,アレルギーの病気や小児がんを減らし、知能を伸ばし、膠原病、肥満,高血圧、糖尿病を減らすという長期効果があると言われています9)。 口の健康に関して、むし歯という判断基準以外のことも考えあわせながら 長期にわたって口の健康と身体の健康を総合的に診てくれる歯科医も増えてきました。 あなたのご近所にも、そんな理解のある歯科医がいるかもしれません。是非さがしてみてください。 【参考文献】
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