「母乳だけで育てると赤ちゃんがビタミンD不足になる」と聞いて心配されているのですね. ビタミンDは赤ちゃんの骨の発育・発達に必須のものなので,赤ちゃんにビタミンDが十分足りているかを考える事はとても重要なことです.まず,ビタミンDについてお話します. ビタミンDは食事(赤ちゃんであれば母乳など)からの摂取の他に,日光にあたることによって,おとなでも赤ちゃんでも皮膚で産生されます.従って,日光に当たりにくい生活環境,つまり,もともと日照時間の短い高緯度地域に住んでいる人,日に当たることを避けている人,ビタミンDの多く含まれた食事を摂らない人は,ビタミンDが不足するリスクが高いのです.ビタミンDが不足すると,骨がもろくなるビタミンD欠乏症性くる病を発症することがあります. 日本は日照時間が比較的長い緯度に位置しており,また,栄養面の改善により,食物を通したビタミンDの摂取量が平均的に多くなり,ビタミンD欠乏性くる病はまれな病気と考えられてきました.一方では,生活の近代化により,日光に当たる機会が減少して(日に当たらない,日焼け止めクリームの常用など),ビタミンDが不足する危険性が高くなってきている,ということも指摘されています. WHO/UNICEFは,世界中の母親に生後6ヶ月間は母乳だけで育て,それ以降は補完食(離乳食)を与えながら母乳育児を2年以上続けることを推奨しています.日本においては,赤ちゃんがビタミンD不足にならないために,さらに以下のことが大切です. 1) お母さんがビタミンDを多く含む食物を食べ,日光を浴びる ビタミンDを多く含む食品は魚類ときのこ類です.また,日光による合成もうまく利用することが必要です.日焼けをするほどの「日光浴」は勧められませんし,全身はだかになる「日光浴」も必要ありませんが,日本が位置する緯度を考えると,両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度,または日陰で30分間くらい過ごす程度で,食品から平均的に摂取されるビタミンDとあわせて十分なビタミンDが供給されると言われています. 2) 赤ちゃんも日光を浴びる お母さんと同じように,両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる,また日陰で30分間くらい過ごすなどをします.お母さんと一緒にできますね. 3) 特別な配慮が必要な場合には、ビタミンDの補充 ・ お母さんもしくは赤ちゃんに多品目の食餌制限が必要であったり,菜食主義である場合 ・ 日光をあまり浴びない生活が続く場合 ・ 未熟児くる病(未熟児骨減少症)の予防・治療で必要な場合 (このような場合は,小児科医によく相談しましょう) アメリカ合衆国やイギリスなど,国土が高緯度にあったり,遺伝的に肌の色が濃い人が多い国では,お母さんも赤ちゃんも,日光によるビタミンDの合成が十分にできない可能性が高いことから,乳児栄養の専門家は,赤ちゃんのビタミンD不足を予防するために,生後すぐからビタミンDの補充をはじめる必要があると言っています.これは,どの栄養法で育つ赤ちゃんにもビタミンDが必要なのであって,母乳で育っている赤ちゃんだけに必要なのではありません.人工乳で育っている赤ちゃんもビタミンDを摂取していますが,これは人工乳にビタミンDが添加されているからです. 「母乳だけで育てるとビタミンD不足になる」は,「ビタミンDが十分に体の中で作られない環境にあると,ビタミンD不足になる」と読み替えると,正確な情報になるということです.お母さん自身がビタミンDの豊富な食事を食べ,ビタミンDを体の中でたくさん作れるように赤ちゃんとお母さんが適切に日光を浴びるようにすることは,健康的な生活を送ることを意味します.そして,それがすなわちビタミンD不足を防ぐことになるわけです. 【参考資料】
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2014/5/3作成 JALC Q&A部会 ダウンロードは、こちらから→ |