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Japanese Association of Lactation Consultants

母乳育児Q&AQ AND A

15.カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ないって本当?

今妊娠中です。「母乳で育てよう」「カンガルーケアもやりたい」と思っていたのですが、カンガルーケアや完全母乳で育てることは赤ちゃんに危険がある、また完全母乳で育てることは発達障害と関係があるという話を聞きました。本当なんでしょうか?
 今まで生まれてすぐにカンガルーケアを行うことや、母乳だけで育てることは赤ちゃんのためになる素晴らしいことと思っていたのに、どちらも赤ちゃんに危険を及ぼす可能性があると聞いて、不安になっていらっしゃるのですね。
 全く違う意見なので、本当はどうなんだろう?と疑問に思うのも無理はありません。

 予定日近くで生まれた元気な赤ちゃんを、生後すぐに肌と肌と合わせて抱っこするカンガルーケア(早期母子接触と言うことにします)については、何故行われるようになったか、どういう意義があるのかについては、既に多くのことが言われています。それについては文末を参照下さい。
 では以下2つに分けてお答えします。

Q1:カンガルーケア(早期母子接触)って危険なの?
 赤ちゃんの胎外生活への適応を助けると言われている早期母子接触のことを,危険と考える人がいるのはなぜでしょうか?

A1: 早期母子接触中に具合が悪くなった事例があったことをもってそのように考えているようですが、早期母子接触が原因という根拠があるわけではありません。

 ドイツや英国では全新生児についての調査があって、出生直後に健康と思われた赤ちゃんがその後急に具合が悪くなって命にかかわるようなことは、確かに出生10万について3〜5人程度起きると報告されていますが、それは早期母子接触の有無にかかわらず起きています(1、2)。
 日本では、20万人弱程度の限られた数の調査があり、頻度は同じくらいと報告されています。日本のこの調査では、早期母子接触を導入した後は導入前に比べて頻度が減少していたと述べています(3)。

  そもそも出生後しばらくは胎内から胎外の生活への大きな変動の時期でもあり、また何か病気を持っているかどうかということはすぐにはわからないので,生まれた直後には一見健康と考えられる赤ちゃんであっても継続して観察していく必要があり(4)、安全対策は早期母子接触を行う場合でも行わない場合でも必要です。

 早期母子接触は科学的にその有用性が証明されています。早期母子接触を行うことは、出生後に胎外生活に適応することを助け、お母さんと赤ちゃんはかけがえのない時間を過ごすことができます。すべてのお母さんと赤ちゃんは、安全を確保して適切な方法で早期母子接触を行う権利を持っており、それはこの世界に生まれてきた赤ちゃんへの愛情を込めた歓迎方法といえます。

  出産前にバースプランを助産師と話し合う機会があるはずです。その時に、どんなふうに赤ちゃんを抱っこするのか、だれか付き添うのかなど、あなたが安全な早期母子接触を行えるよう話し合ってみましょう。

Q2:完全母乳が危険とは? また発達障害との関係は? 
次に、出生直後に母乳だけで育てることが一部の報道にあるように低血糖の原因になる危険なことなのかどうか、また発達障害と関係あるかについてはどうでしょうか。

A2:一般的に母乳だけで育てることは自然で理にかなった事であり、赤ちゃんにもお母さん自身にも沢山の利点があります(5)。

 世界保健機関(WHO)/ユニセフや国内国外の小児科関連学会は、生後6ヵ月までは母乳だけで、その後は補完食(離乳食)も食べながら母乳は少なくとも2歳までは止めないよう、その後も母子が母乳を必要としなくなるまで続けるように勧めています(6、7)。

  赤ちゃんとお母さんが同じ部屋で過ごして、生まれた後出来るだけ早期から、適切な抱き方とのませ方で、欲しがるたびに頻回に(8〜10回以上/日)授乳することは、低血糖を予防し(8)、母乳の分泌を最大限に引き出す理にかなった方法として勧められています(9、10)。予定日近くで生まれた健康な赤ちゃんはエネルギーを維持する仕組みを持っているため、生後すぐにのむ母乳の量が少量であると言うだけで低血糖をおこすことはないと言われています(8)。

 ここでいう「母乳だけで育てること」は、母乳が出ていない場合にも人工乳を補足しないことを推奨することではありません。本当に赤ちゃんに必要な母乳が飲めていない場合には、より多くの母乳を飲みとれるような支援や、さらに分泌を増やす支援とともに、必要な期間搾った母乳や人工乳の補足をするということが必要とされます(12)。

 また、母乳だけで育てることによって、認知能力がよくなりIQが高くなるということは多くの研究で高い根拠が示されています(5)。根拠はやや弱いものの成長後の感情の問題や行動の問題が少ないという新しい研究もあり(11)、母乳だけで育てることが発達障害と関係するという主張には根拠がなく、専門家の共通認識もありません。

 適切な支援を受けることによって,多くのお母さんは赤ちゃんを母乳で育てることが可能となるでしょう。
 母乳で育てることは素晴らしいことです。是非出産前にお母さんの希望を伝えて医師や助産師と話しあってみて下さい。

参考資料:早期母子接触の意義
 早期母子接触はそもそもどうして行われるようになったのでしょうか。
 生まれた赤ちゃんをすぐにお母さんから離してお風呂に入れたり、お母さんは疲れているだろうから別の人がお世話しましょうと違う部屋に連れて行くというように、赤ちゃんをお母さんから離してしまうことは、実は母と子の両方にとって好ましくないことなのだ、という反省から早期母子接触が行われるようになりました。
 早期母子接触を行った場合と行わなかった場合を比べた多くの研究によって、その効果が確かめられています。多くの研究の中から、きちんとした研究であると評価を受けた論文のみを選んだコクランというデータベース(2012年改訂版)によると、次のようなことがわかっています。(13,14)
1、赤ちゃんにとってストレスが少なく、生理的な安定が得られます
  ・ まず赤ちゃんはあまり泣きません
   (赤ちゃんは泣かなくてはならない、ということはないのです)
  ・ 心拍数と呼吸数が早く落ち着きます
  ・ 体温がより高く保たれます(服を着せたりインファントウオーマー下に置くよりも)
  ・ 血糖値がより高く、安定します
  ・ NICUへ入院する赤ちゃんが減りました
2、すぐに母子が交流できます
  ・ 愛着形成がより増加します
  ・ 1年後にも、抱っこしたり、触れ合ったり,話しかける事が多いという効果が確認されています
3、母乳育児がうまくいき,母乳育児期間が延長します
4、お母さんのストレスを減らします
  ・ 出産後の疼痛を感じにくくなります
  ・ 出産後の不安感を少なくします
 以上のデータを見ると,早期母子接触が出生直後の母子にとってよいと勧められるのには、きちんとした科学的根拠があることがわかります。

【参考資料】
  1. Poets A, Steinfeldt R, Poets CF (2011). Sudden Deaths and Severe Apparent Life-Threatening Events in Term Infants Within 24 Hours of Birth. Pediatr. 127; e869-e873
  2. Becher JC, Bhushan SS, Lyon AJ (2012). Unexpected collapse in apparently healthy newborns-a prospective national study of a missing cohort of neonatal deaths and near-death events, Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed, 97; F30-F34
  3. 吉永宗義、林時仲ほか(2009). 「赤ちゃんにやさしい病院」における分娩直後に行う母子の皮膚接触(early skin to skin contact)、こども未来財団「妊娠・出産の安全性と快適性確保に関する調査研究報告書」、p27-32
  4. Ludington-Hoe SM, Morgan K(2014), Infant Assessment and Reduction of Sudden Unexpected Postnatal Collapse Risk During Skin-to-Skin Contact. Newborn & Infant Nursing Reviews 14; 29-34
  5. American Academy of Pediatrics(2012). Policy statement Breastfeeding and the use of Human Milk, Pediatrics; 129: e827-e841
      上記資料「母乳と母乳育児に関する方針宣言(2012年改訂版)」の Executive Summary
      日本語訳は下記より
      http://jalc-net.jp/dl/AAP2012-1.pdf (2014年11月29日確認)
  6. BFHI2009翻訳編集委員会、UNICEF/WHO(2009).赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイドベーシック・コース、医学書院
  7. 日本小児科学会. 栄養委員会・新生児委員会による母乳推進プロジェクト報告(2011).「小児科医と母乳育児推進」日児誌 115:1363 -1389
  8. ABM臨床指針第1号:正期産児と後期早産児における血糖値モニターと低血糖治療のためのガイドライン2014 年改訂版.
       http://www.jalc-net.jp/dl/ABM_1_2014.pdf (2014年11月29日確認)
  9. ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル(2004). だれでもできる母乳育児改訂版、メディカ出版.
  10. JALC Q&A上手な抱き方と飲ませ方について
       http://www.jalc-net.jp/FAQ/ans4.html (2014年11月29日確認)
  11. Lind JN, Li N, Perrine CG, Schieve LA (2014). Breastfeeding and later psychosocial development of children at 6 years of age. Peddiatr 134(Suppl 1);S36-41
  12. ABM臨床指針第3号:母乳で育てられている健康な正期産新生児の補足のための病院内での診療指針2009年改訂版.
      http://www.jalc-net.jp/dl/ABM_3_2010.pdf (2014年11月29日確認)
  13. 井村真澄(2015). 出生直後の母乳育児支援、日本ラクテーション・コンサルタント協会編、母乳育児スタンダード改訂版、医学書院
  14. Moore ER, Anderson GC, Bergman N, Dowswell T (2012). Early skin-to-skin contact for mothers and their healthy newborn infants:Cochrane Database Sys Rev. Issue 5
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 学術事業部 Q&A部会
2014年12月14日作成
ダウンロードは、こちらから→PDF版を表示