本文へスキップ

非営利活動法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会の公式ホームページです。母乳育児支援にかかわる専門家のための非営利団体です。

母乳育児Q&AQ AND A

5.ダイオキシン

母乳を飲ませるときにダイオキシンが心配です。大丈夫でしょうか。
 母乳には有害なダイオキシンが入っているからあまり飲ませないほうがいいというような情報があるので、不安を感じていらっしゃるのですね。
 確かにここ数年「日本のダイオキシン汚染は世界最高」「母乳のほうがダイオキシンのせいでアトピーが多い」「甲状腺機能が低下する」「発育発達に悪影響がある」「赤ちゃんが大きくなって子宮内膜症にかかりやすくなる」などの情報が一部のマスコミに流れ、それを受けて「母乳は3ヵ月までにしておいたほうがいい」などというアドバイスがまことしやかに流されました。ちょっと情報を整理してみましょう。
 日本のダイオキシン汚染は諸外国と比べて特別に高いわけではありません。世界一という根拠に使われたのは、1970年代のはじめに出された母乳の脂肪1グラムあたり「51ピコグラム」というダイオキシンの値なのですが、これは、年代も古いこともさることながら、毒性のないダイオキシンを分離しないですべて毒性のあるものとして計算したもので、他の値と比較することができない特殊な値なのです。(注:1ピコグラムは1グラムの1兆分の1)横浜国立大学の中西準子教授の計算では、この「51ピコグラム」を除けばすべての測定値の平均は脂肪1グラムあたり「15.4ピコグラム」となっています。(1992/1993年のWHOが発表した値では、オランダ22.4、ベルギー24.8、イギリス16.6、ドイツ16.5、デンマーク15.2、カナダ14.5、ノルウエー10.8など)汚染されているのは母乳だけではありません。母乳を調べたのは、母乳が血液より脂肪が多いので、人体の汚染濃度を調べやすかったからだけなのです。国や企業が環境汚染をより少なくする努力をすることは大切ですが、まるで母乳育児自体が危険なものであるかのように誤って伝えられると、母乳育児をしているお母さんは不安になってしまいますね。日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)は、断乳の是非を判断するための個人の母乳のダイオキシン汚染濃度の測定や母乳の安全基準の設定、早期断乳指導などの介入に反対しています。
(「JALCのダイオキシン問題に関する声明」はこちら(別Win))

 アカゲザルの実験からダイオキシンの入った母乳を飲むことで子宮内膜症になるリスクが高くなるのではという声もありました。母乳中のダイオキシン類の濃度は年々減り70年代と比べて半減しています。日本で汚染が最悪と言われた70年代に母乳で育てられた女性を調査した東京大学の堤治助教授によれば、今より汚染がひどかった頃の母乳であっても、同時期に人工乳で育てられた人より子宮内膜症になりにくかったそうです。母乳で育てると子どもが感染症やがんなどになりにくいことは今までわかっていましたが、子宮内膜症の予防効果もあるようなことが示唆されたのです。

母乳で育った子どもにアトピーが多いという情報もデータの読み違えです。母乳で育てられた子どものほうにアトピーが多いかのように見えるグラフを作成しているNPOの本を監修していた助教授も、新聞の取材でそのグラフの間違いを認めています(讀賣新聞大阪版1999年5月27日)。母乳だけで育てるとアレルギーになる確率が低くなることは数々の研究で明らかです。むしろ、母乳以外のもの(人工乳や果汁など)を早期に与えるとアレルギーの発症の危険を高めます。

 ダイオキシンのせいで甲状腺の機能が低下するというのも1つの研究によって誇張された情報です。イギリスの医学誌「ランセット」には、逆にダイオキシンの濃度が高いと刺激ホルモンがでて甲状腺ホルモン(thyroxin)の濃度が増えることもわかっています。人体にはホメオスタシスという、極端にならないように均衡を保とうという機構があるので、一部の研究結果だけですべてを語ることはできません。一部のマスコミは、thyroxinという成長に大切なホルモンが減るのは大変だと騒ぎました。しかし実は母乳の中にはこの大切なホルモンが含まれていますが、人工乳には含まれていないのです。このホルモンの適切な摂取という意味でも母乳育児はかけがえのないものであることがわかります。

 「発育」に関しては、確かにダイオキシン類の胎児への悪影響を表わす研究はあります。しかし、乳児に関しては、たとえダイオキシン類が母乳に含まれていたとしても母乳育児を続けたほうがかえって悪影響が相殺されるという研究もあります。アメリカのローガン博士という、長年母乳のPCB汚染とその影響について研究してきた人がいます。博士も研究を始めたころは、母乳を通した子どもへの影響を心配していたのですが、子どもを追って発達を見ていくうちに、むしろ母乳のほうが、しかも長く飲ませるほど脳が発達していたとわかりました。ユニセフでは、彼の言葉や論文を引用して母乳の安全宣言をしています。

  「3ヵ月で母乳をやめたほうがいい」というアドバイスは、まったく科学的な根拠がありません。母乳の中のダイオキシン類の濃度は、出産後が一番高く徐々に減るのですから、減っているのに母乳をやめなければいけないというのは論理的にもおかしいのです。その根拠として「ドイツでは4ヵ月で断乳指導をしていた」という情報が流れたこともありました。確かに、汚染のレベルに関わらず(当時、離乳食を始めてもよいとされていた)4ヵ月までは完全母乳を奨め、それ以上母乳育児をする場合は汚染量によっては授乳を減らしていくという奨励が過去にありました。しかし、汚染濃度の高い早期に母乳検査をしたり早くに母乳をやめてしまったりという混乱が生じました。結局ダイオキシン類の量がここ数年で半減している(日本と同じレベルまで減っている)ことから、1995年以降、ドイツ政府は個人の母乳検査を中止し、全体の汚染を調べることのみを続けることにしました。そして、国をあげて母乳育児を推進しています。WHOも厚生労働省も数々の研究を元に母乳育児が赤ちゃんに最良のものであると勧めています。「3ヵ月まで母乳にしてあとは混合に」という奇妙なアドバイスは、もともと当時の厚生省が1975年のスローガンで「3ヵ月までは、できるだけ母乳のみでがんばろう」と言っていたからにすぎません。現在の厚生労働省では「3ヵ月」という限定的な言い方をやめて、母乳育児を推奨しています。

 母乳育児は、乳児の健康や発達に理想的で、病気の予防になり、母と子のきずなを深めます。一方、人工乳は、栄養的にも完全に母乳と同じものとは言えず、免疫物質も入っていません。あなたの赤ちゃんにとってあなたの母乳にまさるものはありません。
 私たちの子どもたちを守るため、環境から汚染を最小限にするためはどうしたらいいでしょうか。消費者としては燃やすと有害なダイオキシンを発生させるプラスチック類を「燃えるごみ」に出したり、自分で燃やしたりしない。なるべくごみを出さずにガラスのびんのように使えるものはリターナブルにして繰りかえし使うことも大切でしょう。家庭用の殺虫剤も含め、農薬の摂取を減らすことも必要です。
 人工乳を作る材料は母乳が汚染された同じ環境にあるだけではなく、その製品加工の過程における汚染事故や調乳の水の汚染の可能性も否めません。母乳は、直接乳児に飲ませる限り汚染の可能性は最小限になります。母乳育児をすると哺乳びんや粉ミルク缶の廃棄処理の必要がないため、大地、大気、水を汚染しません。 地球の環境のためにあなたにできる最大のこと、それは母乳で育てることなのです。

【参考文献】

  1. 本郷寛子:母乳とダイオキシン、岩波ブックレット、1999
  2. ナオミ・ボームスラグ&ダイア・L・ミッチェルズ(著)橋本武夫(監訳):母乳育児の文化と真実、メディカ出版、1999
  3. ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル(訳:ラ・レーチェ・リーグ日本、1998年)ニュース・リリース:汚染された世界においても母乳育児は最善の選択 <www.llljapan.com>
    International Lactation Consultant Association: Position on Breastfeeding,Breast Milk, and Environmental Contaminants. 2001
  4. 日本ラクテーション・コンサルタント協会「JALCのダイオキシン問題に関する声明(別Win)」1999  
 ダウンロードは、こちらから→