日本周産期・新生児医学会 「早期母子接触」実施の留意点(案)へのパブリックコメント |
2012年8月10日 |
和田友香(成育医療センター新生児科、日本周産期・新生児医学会会員) NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 学術委員会 大山牧子(神奈川子ども医療センター新生児科、同会員) 奥起久子(亀田総合病院新生児科、同会員、評議員) 瀬尾智子(名古屋市立大学医学部小児科、同会員) 水野克己(昭和大学小児科、同会員、評議員) |
このたび、日本周産期・新生児医学会が学会として「早期母子接触」に関する手引きとなる文書を作成されたことに対して、感謝と敬意を表します。学会としての方針が明らかにされることは、エビデンスに基づく新生児医療を行う上で、たいへん意義のあることです。以下は、日本周産期・新生児医学会「早期母子接触」実施の留意点(案)に関する、NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会学術委員会からのコメントです。最終案作成の際に、ご検討くださいますようお願いいたします。 1,1ページ目 タイトル 「早期母子接触」実施の留意点(案)について→「母子早期接触実施について」もしくは「母子早期接触実施についての手引き」でいかがでしょうか。 理由: 留意点と言う表現は、何か危険な行為であると言うニュアンスを言外に含んで おり、削除が適切と考えます。 2,1ページ目の項目の最初に以下の項目を加えてください 早期母子接触は科学的にその有用性が証明されており、適切な方法で行われれば、分娩後の母子の適応を促進するものであり、母子の当然の権利でもある。 理由:早期母子接触が危険なものではなく有用なものであることを誤解されないため。 3, 1ページ目 2項目: 「呼吸・循環機能は容易に破綻し、呼吸循環不全を起こし得る」→「呼吸・循環機能が不安定な時期である。」 理由:ほとんどの新生児は破綻することがありませんので、「容易に」という言葉は両親に不安をあおってしまう危険性があります。 4, 1ページ目 5項目目 2行目: 「有益性や効果だけでなく児の危険性についても十分に説明する」→「科学的に有用性、効果が証明されていることに加え、生後早期は早期母子接触の施行の有無には関係なく呼吸・循環が不安定な時期であるため、一緒に児を見守る必要があることを説明する。」 理由:早期母子接触自体が危険なのではなく、その時間帯が危険であることを説明する必要があります。マスコミが誤解する、国民が誤解する最大のポイントだと学会シンポジウムでも皆が認識いたしました。しっかり明記するべきだと考えられます。 1〜4までは最初のページについてのコメントです。以下該当ページ全文を提示します。 |
**************************************************************************************************************** 「早期母子接触」実施の留意点(案) 日本周産期・新生児医学会 1ページ目 1.「カンガルーケア」とは、全身状態が安定した早産児にNICU(新生児集中治療室)内で従来から実施されてきた母子の皮膚接触を通常指す。一方で、正期産新生児の出生直後に分娩室で実施される母子の皮膚接触は異なるケアが求められるにもかかわらず、この「カンガルーケア」という言葉が国内外を問わず用いられ、用語の使用が混乱している状況である。そこで、正期産新生児の出生直後に実施する母子の皮膚接触については、「カンガルーケア」とは呼ばず「早期母子接触(early skin-to-skin contact)」とここでは呼ぶ。 2、出生直後の新生児は、胎内生活から胎外生活への急激な変化に適応する時期であり、呼吸・循環機能は容易に破綻し、呼吸循環不全を起こし得る。したがって、「早期母子接触」の実施に関わらず、この時期は新生児の全身状態が急変する可能性があるために注意深い観察と充分な管理が必要である(この時期には早期母子接触の実施にかかわらず、呼吸停止などの重篤な事象は約5万出生に1回、何らかの状態の変化は約1万出生に1.5回と報告されている)。 3、分娩施設は、「早期母子接触」実施の有無にかかわらず、新生児蘇生法(NCPR)の研修を受けたスタッフを常時配置し、突然の児の急変に備える。また、新生児蘇生アルゴリズムを分娩室に掲示してその啓発に努める。 4.「早期母子接触」を実施する施設では、各施設の実情に応じた「開始基準」「中止基準」「実施方法」を作成する。 5、妊娠中(たとえばバースプラン作成時)に「早期母子接触」の十分な説明を妊婦へ行い、夫や家族にも理解を促す。その際に、有益性や効果だけではなく児の危険性についても十分に説明する。 6、分娩後に「早期母子接触」希望の有無を再度確認したうえで、希望者にのみ実施し、そのことをカルテに記載する。 **************************************************************************************************************** |
5, 4ページ目 5)早期母子接触の開始基準、中止基準、実施方法について @ 正期産児、低出生体重児ではないと限定されていますが、Late PretermでもSGAでも実施できるように、対象を限定するべきではないと考えられます。 理由:早期母子接触は、状態のよい新生児なら正期産児に限らず行うべきだと、WHOなどでも勧められています。(参考文献: Cochrane Database Sys Rev. 2012) A 「開始基準」を設定するのではなく「早期接触が不適当な場合」のみを設定し,開始基準の中で必要な項目をそこに含めることが適切であると考えられます。 理由:「開始基準」というもの自体を設定することは、早期母子接触は開始基準をみたした場合だけ行う特殊な行為ということを暗に意味し不適切だと考えます。理由なく母子分離をすることは避けるべきであり、早期母子接触は母と子に問題がなければ標準的なケアとしてルーチンに行われるべきです。 <早期接触が不適当な場合> *母親が早期接触を希望しない場合 *母親もしくは児の意識・呼吸・循環などが不安定な場合 *その他、医師・助産師・看護師などスタッフが不適当であると判断した場合 Apgar Scoreや出生体重、在胎週数などは明記する必要はないでしょう。また、胎盤機能不全や母親の疲労などは、定義が曖昧なため、現場のスタッフの判断にゆだねてよいと思われます。 以下4ページ目の該当部分を提示します。 |
**************************************************************************************************************** 5) 早期母子接触の開始基準、中止基準、実施方法 <開始基準> 母親の基準
母親の基準
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6, 5ページ目 実施方法: @ 「継続時間は2時間以内とし」→ 2時間以内に限定する科学的根拠はとぼしいので削除が適切と思われます。 以下5ページ目の該当部分を提示します。 |
**************************************************************************************************************** 以下実施方法 ◆バースプラン作成時に「早期母子接触」についての説明を行う。 ◆出生後5分以内に開始し、30分以上、もしくは、児の吸畷まで継続することが望ましい。 ◆継続時間は上限を2時間以内とし、児が睡眠したり、母親が傾眠状態となった時点で終了する。 ◆ 分娩施設は早期母子接触をおこなわなかった場合の母子のデメリットを克服するために産期およびその後の育児に対する何らかのサポートを講じることが求められる。 **************************************************************************************************************** |
以上 |
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