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厚生労働省「児童福祉法 保育所保育指針2017改訂版」へのパブリックコメント
 
 
 2017 年 3 月 15 日
文責:大山牧子(新生児科医、医学博士、
国際認定ラクテーション・コンサルタント、
地方独立行政法人 神奈川県立行政機構 神奈川県立子ども医療センター
地域連携・家庭支援局 地域保健推進部長、同 医療局新生児科部長、
日本新生児成育医学会評議員)
 
 改定案の第三章の「健康及び安全」または、第四章「子育て支援」の中に「母乳育児を希望する保護者のために、母乳育児が継続できるような合理的配慮を行う」という一文を入れていただきたい。

理由は、保育所に預けられる子どもとその母親が、世界的に根拠が集積している長期母乳育児の恩恵を受ける1)ことを妨げないためである。
以下、現況と根拠となる報告を列記する。

  • 生後1歳未満の児を持つ就業中の女性の母乳育児率は85.1%と極めて高率である事。
    厚労省平成27年度乳幼児栄養調査結果の概要2)によると、出産後1年未満の就業中の母親の母乳栄養率は49.3%,混合栄養は35.8%で、10年前に比べ母乳栄養の割合が22.6%増加していた。
  • 子どもを保育所に預けて職場復帰する場合、フルタイムの復帰で人工乳哺育すると、自宅で母乳育児する場合に比べ抗菌薬を必要とするような感染症罹患が7倍になるが、集団保育しても母乳育児を継続すると4倍のリスクで済むというカナダの報告がある3)。
  • 平成12年の児童福祉法保育所保育指針第12章には「母乳育児を希望する保護者のために,冷凍母乳による栄養法などの配慮を行う。冷凍母乳による授乳を行うときには,十分に清潔で衛生的な処置が必要である」と記載があった。また、現行の児童福祉法保育所保育指針解説書では、「授乳・離乳期においては、食べる意欲の基礎をつくることができるよう家庭での生活を考慮し、一人一人の子どもの状況に応じて時間、調理方法、量などを決める。母乳育児を希望する保護者のために、衛生面を配慮し、冷凍母乳による栄養法などで対応する」と記載されている。
    この文章のおかげで冷凍母乳による母乳育児を継続できている反面、冷凍母乳しか使用しないという理解となり、保護者保育園側ともに保育所での母乳の取り扱いは大変と認識され、不便を被っている。
  • 新鮮冷蔵母乳の利用は、母乳育児の恩恵を継続しやすく、かつ使用しやすく、より安全である4)。また、その後の研究で健康な乳児では新鮮冷蔵母乳は冷蔵庫内で8日未満は安全に使用できることがわかっている5)。
  • 長期に母乳育児を継続することは、子どもの感染症予防、母子の将来のメタボリックシンドロームの予防に有用であるという疫学的データが蓄積されている1)。
参考文献
  1. Long-term effects of breastfeeding: a systematic review. WHO,2013 http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/79198/1/9789241505307_eng.pdf
  2. 平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要.雇用均等・児童家庭局母子保健課平成28年8月 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134207.pdf
  3. Dubos L,et al. Breast-feeding, day-care attendance and the frequency of antibiotic treatments from 1.5 to 5 years: a population-based longitudinal study in Canada Soc Sci Med. 2005 May;60(9):2035-44. Epub 2004 Nov 13.
  4. 大山牧子他、保育所における搾母乳の取り扱い神奈川県内市町村へのアンケート結果より 小児保健研究2006,65(2),348-356)
  5. 北米母乳銀行ガイドライン2011(Jones F. Practice for Expressing, Storing and Handling Human Milk in Hospitals, Homes, and Child Care Settings.3rd ed. Fort Worth, Human Milk Banking Association of North America, 2011)
  
以上
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