緊急用物資としての調整液状乳と使い捨て哺乳びんの取り扱いについての提言

〜乳幼児の援助に当たる自治体、専門家、NPOなどの援助者の方々へ〜

NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会 学術委員会   2011年6月7日

 東日本大震災では子どもを育てている母親や乳幼児も例外なく困難な生活を強いられています。被災生活が長期化し不便な状況が続く中で育児を続けておられるお母さんたち、そして我慢したり頑張っている子どもたちにエールを送ります。
 ライフラインが途絶する災害時に母乳が有用であることは言うまでもありませんが、一方で人工栄養を必要とする乳幼児には、緊急時にこそ人工栄養が適切に行われなければなりません。今回の災害では、援助物資として調整液状乳(液体人工乳、液体ミルク)や使い捨て哺乳びんといった、従来日本では使用されていなかった物資が海外から届いています。これらは、乳幼児栄養についての知識を持った保健医療従事者の管理の下で、適切な製品を、本当に必要な乳児だけに適切に配布するシステムがあってはじめて効果的に利用できます(資料1)。災害時の混乱の中でこのようなシステムを構築するのは現実的には困難かもしれません。それでも援助者が原則を念頭において行動することで、好ましくない波及効果を最小限にできるかもしれません。
 調整液状乳と使い捨て哺乳びんには以下のような特徴と、使用にあたっての注意点があります。

【調整液状乳の特徴と注意点】
(特  徴) 調乳の必要がなく常温で保存可能な点で、緊急時の備蓄としてはきわめて有用である。
(注意点) 海外の製品には開封後に冷蔵庫保存が必要な大容量のものや薄めて使用するような災害時には適さない製品もある。日本国内で販売されていないため、製品情報が不十分である。
不適切かつ衛生的でない使用方法によって、乳幼児が重症の下痢を起こすなどのリスクがある。
母乳育児中に使用すると、母乳分泌量が減少して母乳育児が中止に至る可能性がある。

【使い捨て哺乳びんの特徴と注意点】
(特  徴) 洗浄・消毒の必要がないため、緊急時の備蓄として有用である。
(注意点) 調乳に使用する場合、70度以上の熱湯で調乳できないような材質のものは製品として不適当であるが、日本では品質に関する情報が不十分である。
供給が不安定な場合、複数回使用するなど不適切かつ衛生的でない方法で使用する可能性がある。
母乳育児中に使用すると、いわゆる「乳頭混乱」が起きて、児が直接授乳をいやがるようになることがある。



提案 - JALCは災害時に調整液状乳と使い捨て哺乳びんが適切に使用されるよう以下を提案します

(1)  人工乳を必要としている乳幼児に対しては、実際に必要としている間、継続して支給できるようにしましょう。逆に必要がなくなった後も援助物資として過剰に供給し続けることは、不要な配布の可能性があり適切ではありません。
(2) 取り扱い説明書は日本語で記載しましょう。
例:「このパックには調乳済み人工乳が○○mL入っています。さらにミルクの粉を加えたり、白湯などで薄めたりしてはいけません。室温のままか適温まで温めて授乳します。使用後残ったミルクは、乳児に与えてはいけません。」
(3) 商品名が入っている物は、事前にラベルを貼り替えるなどしましょう。
(4) 乳幼児の栄養の知識を持った保健医療従事者が、養育者に情報提供して支援しましょう。
(5) 出来れば公的な責任ある部門で一括して管理/配布するようにしましょう。
(6) 母乳だけで育てている母親にも一律に配布されるようなことのないようにしましょう。

備考1: 人工乳の一律な配布は母乳で育てている母親に本来不必要な補足を促し、母乳育児を阻害する 可能性があります。母乳で育てている母親には、食糧の優先的な支給や、安心できる授乳環境の提供や、母乳育児に関する相談窓口の紹介などの支援が必要であり、混合栄養で育てている母親にも母乳育児支援はなされるべきです。
備考2: 使い捨て哺乳びんであっても調乳方法を変更する事は勧められません。すなわち調乳者が手を清潔にした後、煮沸後の熱いお湯を使い、計算通りの粉ミルクを入れ、いったん蓋をして溶かした後、残りの湯で量を調節します。調乳は70度以上で行い、お湯をさましてから調乳するのは適切ではありません。
備考3: 調整液状乳(液体人工乳)は1回ごとに新しいものを開封し、残りを次回までとっておいてはいけません。
備考4: 使い捨て哺乳びんおよび付属の乳首の再使用はやめましょう。哺乳びんの利用より「カップ授乳」(資料2)を考えましょう。

【参考情報】(資料1)
 WHOやUNICEF、国連食糧計画といった国連組織と各国のNPOから成るIFE core groupが作成した「災害時における乳幼児の栄養〜災害救援スタッフと管理者のための活動の手引き(2007)」という小冊子には以下のことが書かれています。
  • 人工乳はそれを必要としている乳児のみを対象とし、乳幼児の栄養について専門の教育を受けた資格のある専門家が評価、決定をする。
  • 無償の物品は受け取らない。寄付ではなく購入した物品を使用するが、寄付が防げなかったら、指定された機関が一貫した管理をする。
  • 人工乳や哺乳瓶はブランド名のないものを使用する。ブランド名がついていたら、そのラベルをはがして、一般名のラベルに貼り替える必要があるかもしれない。
  • 人工乳の支給は、対象となる乳児が必要とするかぎり継続しなければならない。
  • 人工乳や哺乳びんは、一般の支給品に含まれてはならない。必要とする乳児だけに個別に配給するようにする。
 生後6ヵ月までの乳児は母乳だけで育てるよう推奨されており、これには母乳育児を阻害しないように環境を整える援助が不可欠です。そのため本来人工乳など母乳代用品の流通には規準が設けられています (資料3)。
 援助者は、たとえ善意からであっても一律に人工乳や哺乳びんを配布することにはどのようなリスクがあるかを知り、本当に必要な乳幼児に援助物資が行き渡るよう配慮する必要があります。

参考資料
1) IFE作成「災害時における乳幼児の栄養〜災害救援スタッフと管理者のための活動の手引き」
                     http://www.ennonline.net/resources/6
2) カップを使った授乳方法    http://www.jalc-net.jp/cupfeeding2005.pdf
3) WHO 国際規準(全文和訳)  http://www.jalc-net.jp/International_code.pdf 

(ダウンロードはこちらから)

初版:2011年6月8日掲載