毎年、花粉症でつらい思いをされていらっしゃるのですね。今年は赤ちゃんに授乳中なので、いつもの年のように薬を飲んでよいものか、また飲んだとして、母乳の中の薬が赤ちゃんに影響を及ぼすのではないかと心配されているのですね。ご自分の花粉症の症状が毎年ひどいにもかかわらず、薬が赤ちゃんに与える影響を心配されていて、赤ちゃんを大切に思っていらっしゃることがよく伝わってきます。 現在、花粉症の症状を抑える薬としてたくさんの種類が使われています。これまでの薬の使用経験や実際に母乳育児中のお母さんに使用した場合の報告などから、花粉症の治療として使われる薬と授乳について考えてみましょう。 一般的に、局所に作用する薬(吸入薬・点鼻薬・点眼薬など)は、内服薬に比較して体内に吸収される量も少なく、母乳中への移行も極微量で問題にならないことが多いと考えられています(参考文献 2、4)。 したがって、まずそういう薬剤の使用が可能かどうか、かかりつけの医師に相談してみるといいでしょう。 広く内服薬として使われているものには、抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用を持つ第2世代の抗ヒスタミン剤と呼ばれる薬があります 。 ロラタジン(L1. 商品名クラリチン)やセチリジン(L2.商品名ジルテック、セチリジン塩酸塩)、レボセチリジン(商品名ザイザル)は第2世代の抗ヒスタミン剤と呼ばれていますが、眠気などの鎮静作用が少なく、母乳中に移行する薬の量が少ないために、お母さんがこれらの薬を飲んだとしても授乳を継続することにはまず問題がないと考えられています(参考文献1,2)。英国のアレルギー・臨床免疫協会では、セチリジン(レボセチリジンも生物活性は同等)は授乳中に抗ヒスタミン必要な場合の望ましい選択肢とされています*、**。 .また、レボセチリジンは月齢6ヵ月以上、セチリジンは満1歳以上の乳児に処方可能な薬剤です。フェキソフェナジン(L2. 商品名アレグラ)は、ヒスタミンT 受容体拮抗作用を持つ第2世代抗ヒスタミン剤と呼ばれていますが、これも母乳中に移行する量が少ないために授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1,2)。 これらの薬は内服薬としても用いられますが、点眼薬・点鼻薬・吸入薬として用いられることもあります。内服に比べてほとんど血中濃度が上昇しないので、より安全と言えるでしょう。 *Powell RJ, Du Toit GL,Siddique N et al. BSACI guidelines for the management of chronic urticaria and angio-oedema. Clin Exp Allergy. 2007;37:631-50. PMID: 17456211 **LACTMED http://toxnet.nlm.nih.gov/newtoxnet/lactmed.htm Last Revision Date:20140116 ) その他のアレルギーを抑える薬としては、クロモグリク酸ナトリウム(L1、商品名インタール等)が広く使われています。この薬は消化管からほとんど吸収されないので、花粉症の治療薬としては点眼・点鼻・吸入で用います。母乳中への移行はほとんどなく、あっても赤ちゃんの消化管から吸収されることがないので、お母さんがこの薬を使用したとしても授乳を継続することにはまず問題がないと考えられています。 同様に、レボカバスチン(L2.、商品名リボスチン等,)も点鼻薬や点眼薬として用いられています。この薬も点鼻や点眼ではお母さんの血中にはほとんど見られることがないために授乳中の使用にまず問題はないと考えられています(参考文献 1) また、花粉症の症状が強い場合には、ステロイドの点眼薬・点鼻薬・吸入薬が用いられることもあります。よほどの場合でない限り内服はまれでしょうが、ステロイドは授乳禁忌の薬とは考えられていません(参考文献1-3)。特に、局所に作用する薬(吸入薬・点鼻薬・点眼薬など)を用いる場合には授乳への影響がより少なくてすむでしょう(前述)。 ベクロメサゾン(L2. 商品名アルデシンAQネーザル等)、フルニソリド(L3. 商品名シナクリン) 、フルチカゾン(L3商品名フルナーゼ等)などのステロイド点鼻薬が使われていますが、どれも体内に吸収される薬の量は少なく、授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1)。 点眼薬としては、プレドニゾン(L2)やヒドロコルチゾン(L2.)などが用いられますが、これらも同様に授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1) 以上のようなことを参考に主治医と相談されてはいかがでしょうか。このQ&Aの最後に参考となる文献を載せています。その他にも母乳育児と薬剤について参考になる文献やインターネットのサイトについての情報をJALCのHP上に掲載しておりますのでぜひご覧になって下さい。 母乳育児学習のためのリソース、母乳育児と薬剤:https://www.jalc-net.jp/public.html このような情報を医師に知らせて情報を共有することもできるでしょう。そして、医師に授乳を中断したくないという自分の気持ちを伝え、赤ちゃんに影響の少ないものを処方してもらうといいでしょう。医師に自分の気持ちを伝えることは、お母さんにとっては時として大変勇気がいることかもしれません。以下に、医師に授乳を継続しながら治療を受けたいという気持ちを話す場合の例を示します。 <医師と薬についての相談をするときの例>
このような感じで、医師との会話をはじめてみてはいかがでしょうか。もし今診察を受けている医師から理 解が得られない場合は、別の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」を得てみましょう。赤ちゃんと薬の 影響に関しては小児科医の方が詳しい場合がありますから、赤ちゃんがかかっている小児科医に相談して みてもよいかもしれません。 花粉症の季節も、これまでと同じように母乳育児を楽しめるといいですね。
<授乳におけるリスク分類(参考文献 1, 7)>
参考文献
2010/2/10 一部改訂 2015/3/20 一部改訂 |
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