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非営利活動法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会の公式ホームページです。母乳育児支援にかかわる専門家のための非営利団体です。

母乳育児Q&AQ AND A

8.花粉症と母乳育児

花粉症がひどく、毎年薬を飲んでいました。現在3か月の赤ちゃんに授乳中です。授乳中のため薬は飲まないで我慢したらよいのか、また薬を飲んだとしたら授乳はやめた方がよいのか迷っています。
毎年、花粉症でつらい思いをされていらっしゃるのですね。今年は赤ちゃんに授乳中なので、いつもの年のように薬を飲んでよいものか、また飲んだとして、母乳の中の薬が赤ちゃんに影響を及ぼすのではないかと心配されているのですね。ご自分の花粉症の症状が毎年ひどいにもかかわらず、薬が赤ちゃんに与える影響を心配されていて、赤ちゃんを大切に思っていらっしゃることがよく伝わってきます。
 
 現在、花粉症の症状を抑える薬としてたくさんの種類が使われています。これまでの薬の使用経験や実際に母乳育児中のお母さんに使用した場合の報告などから、花粉症の治療として使われる薬と授乳について考えてみましょう。 一般的に、局所に作用する薬(吸入薬・点鼻薬・点眼薬など)は、内服薬に比較して体内に吸収される量も少なく、母乳中への移行も極微量で問題にならないことが多いと考えられています(参考文献 2、4)。 したがって、まずそういう薬剤の使用が可能かどうか、かかりつけの医師に相談してみるといいでしょう。

 広く内服薬として使われているものには、抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用を持つ第2世代の抗ヒスタミン剤と呼ばれる薬があります 。 ロラタジン(L1. 商品名クラリチン)やセチリジン(L2.商品名ジルテック、セチリジン塩酸塩)、レボセチリジン(商品名ザイザル)は第2世代の抗ヒスタミン剤と呼ばれていますが、眠気などの鎮静作用が少なく、母乳中に移行する薬の量が少ないために、お母さんがこれらの薬を飲んだとしても授乳を継続することにはまず問題がないと考えられています(参考文献1,2)。英国のアレルギー・臨床免疫協会では、セチリジン(レボセチリジンも生物活性は同等)は授乳中に抗ヒスタミン必要な場合の望ましい選択肢とされています**
 .また、レボセチリジンは月齢6ヵ月以上、セチリジンは満1歳以上の乳児に処方可能な薬剤です。フェキソフェナジン(L2. 商品名アレグラ)は、ヒスタミンT 受容体拮抗作用を持つ第2世代抗ヒスタミン剤と呼ばれていますが、これも母乳中に移行する量が少ないために授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1,2)。
 これらの薬は内服薬としても用いられますが、点眼薬・点鼻薬・吸入薬として用いられることもあります。内服に比べてほとんど血中濃度が上昇しないので、より安全と言えるでしょう。

*Powell RJ, Du Toit GL,Siddique N et al. BSACI guidelines for the management of chronic urticaria and angio-oedema. Clin Exp Allergy. 2007;37:631-50. PMID: 17456211
**LACTMED http://toxnet.nlm.nih.gov/newtoxnet/lactmed.htm Last Revision Date:20140116 )


 その他のアレルギーを抑える薬としては、クロモグリク酸ナトリウム(L1、商品名インタール等)が広く使われています。この薬は消化管からほとんど吸収されないので、花粉症の治療薬としては点眼・点鼻・吸入で用います。母乳中への移行はほとんどなく、あっても赤ちゃんの消化管から吸収されることがないので、お母さんがこの薬を使用したとしても授乳を継続することにはまず問題がないと考えられています。
 同様に、レボカバスチン(L2.、商品名リボスチン等,)も点鼻薬や点眼薬として用いられています。この薬も点鼻や点眼ではお母さんの血中にはほとんど見られることがないために授乳中の使用にまず問題はないと考えられています(参考文献 1)
 
 また、花粉症の症状が強い場合には、ステロイドの点眼薬・点鼻薬・吸入薬が用いられることもあります。よほどの場合でない限り内服はまれでしょうが、ステロイドは授乳禁忌の薬とは考えられていません(参考文献1-3)。特に、局所に作用する薬(吸入薬・点鼻薬・点眼薬など)を用いる場合には授乳への影響がより少なくてすむでしょう(前述)。 ベクロメサゾン(L2. 商品名アルデシンAQネーザル等)、フルニソリド(L3. 商品名シナクリン) 、フルチカゾン(L3商品名フルナーゼ等)などのステロイド点鼻薬が使われていますが、どれも体内に吸収される薬の量は少なく、授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1)。 点眼薬としては、プレドニゾン(L2)やヒドロコルチゾン(L2.)などが用いられますが、これらも同様に授乳への影響は少ないと考えられています(参考文献 1)

 以上のようなことを参考に主治医と相談されてはいかがでしょうか。このQ&Aの最後に参考となる文献を載せています。その他にも母乳育児と薬剤について参考になる文献やインターネットのサイトについての情報をJALCのHP上に掲載しておりますのでぜひご覧になって下さい。

 母乳育児学習のためのリソース、母乳育児と薬剤:https://www.jalc-net.jp/public.html

 このような情報を医師に知らせて情報を共有することもできるでしょう。そして、医師に授乳を中断したくないという自分の気持ちを伝え、赤ちゃんに影響の少ないものを処方してもらうといいでしょう。医師に自分の気持ちを伝えることは、お母さんにとっては時として大変勇気がいることかもしれません。以下に、医師に授乳を継続しながら治療を受けたいという気持ちを話す場合の例を示します。

<医師と薬についての相談をするときの例>
お母さん 「花粉症の症状がひどいので、お薬を出してもらいたいのですが。でも、今3か月になる子どもに授乳中なのです。」
医 師 「そうですか。ではお薬を出しましょう。お薬を飲んでいる間は念のため授乳を中止しておきましょうね。」
お母さん 「子どもはおっぱいが大好きで母乳しか飲んだことがありませんし、私もできるだけたくさん母乳をあげたいと思っているので、授乳しながらでも使用できるお薬を出してもらえないでしょうか。」
医 師 「そうですか。でも、ほとんどの薬の注意書きには授乳中はだめ、と書いてありますがねえ。」
お母さん 「これは母乳育児を支援する専門家が書いた花粉症の薬と授乳に関する情報です(このQ&Aを見せる)。
ここに書いてあるようなお薬でしたら授乳中でも使用できるようなのですが、どうでしょうか。」

 このような感じで、医師との会話をはじめてみてはいかがでしょうか。もし今診察を受けている医師から理
解が得られない場合は、別の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」を得てみましょう。赤ちゃんと薬の
影響に関しては小児科医の方が詳しい場合がありますから、赤ちゃんがかかっている小児科医に相談して
みてもよいかもしれません。 花粉症の季節も、これまでと同じように母乳育児を楽しめるといいですね。 

 注1) お薬には一般名と商品名があります。内服薬は商品名すべて、それ以外は代表的なもののみを示してあります。一般名はお母さんには聞きなじみがないかもしれませんが、医師や薬剤師に相談すればわかるでしょう。  
 注2)  TW Haleという母乳育児と薬剤についての専門家は、授乳に際しての薬のリスクを以下のように5段階に分類しています。上記にあげた薬にはそれぞれのリスクの程度を付け加えています。こうした情報を医師に相談するときに提示してもよいでしょう。

<授乳におけるリスク分類(参考文献 1, 7)>

L1:  最も安全: 乳児への有害な影響が観察されないで、多くの母親が使用している薬物。授乳婦への投与についてのコントロール・スタディにおいても、児へのリスクが示されることなく、さらに、授乳中の児へ害を及ぼす可能性がほとんどないもの。もしくは、児が経口的に摂取しても、吸収されないもの。
L2: より安全 :限定された授乳婦における研究において、児に対する有害な影響の増加は示されていない薬物。さらにもしくはあるいは、授乳婦がこの薬物を使用したとしても、そのリスクが示されることがほとんど考えられないもの。
L3:   中等度の安全 :授乳されている児に対して、不都合な影響を与える可能性があるが、授乳婦においての、コントロール・スタディのないもの。もしくは、コントロール・スタディにおいて、極軽微で命を脅かすことのない程度の影響が示されているもの。このような薬は、児に対する潜在的な有益性が潜在的なリスクを正当化するような場合においてのみ、投与されるべきである。
L4:  悪影響を与える可能性あり :母乳育児中の乳児もしくは母乳の産生にリスクがあるという、明らかなエビデンスがあるものではあるが、授乳中の母親がこの薬物を使用することによって得られる有益性は、児に対するリスクにもかかわらず、許容される範囲内である様な薬物。(たとえば、命を脅かすような状況に必要な薬物や、より安全な薬が使えなかったり、他の薬剤では効果がなかったりするような重篤な疾患の時など。)
L5:  禁忌:授乳婦における研究により、ヒトにおいて重大で証明されたリスクがあることがすでに明らかにされているもの。すなわち、乳児に重大な障害を引き起こすリスクが高い薬物。授乳婦がこのような薬物を使うリスクは、母乳育児のどのような有益性も明らかに上まわっている。母乳育児をしている母親においては、禁忌となる薬物。

参考文献
  1. Hale TW, Medications and Mothers'Milk, 13th ed, Hale publishing, 2008
    日本語訳は水野克己ほか監訳:薬剤と母乳.13版. Hale publishing, 2009
  2. Hale TW and Ilett KF, Drug Therapy and Breastfeeding: From Theory to Clinical Practice, 2002
  3. American Academy of Pediatrics Committee on Drugs, The Transfer of Drugs and Other Chemicals into Human Milk, Pediatrics, 108(3): 776-789, 2001
    ( http://aappolicy.aappublications.org/cgi/content/full/pediatrics%3b108/3/776 ):アメリカ小児科学会が薬が母乳に与える影響について示したガイドライン。様々な薬と授乳への影響が示してある。
  4. La Leche League International, The Breastfeeding Answer Book, 3rd ed, 2003
  5. 岡藤みはる、山内芳忠. 母乳とくすり-母親の使用薬剤と母乳栄養. 小児内科, 36(5): 747-752, 2004
  6. 瀬尾智子. 母乳と薬剤, 第14回母乳育児学習会資料: 22-36, 2003
  7. 涌谷桐子. 分娩・産褥期に異常がある場合の母乳育児とその援助ー身体的異常を中心に,
    第14回母乳育児学習会資料: 37-57, 2003
  8. Breastfeeding and maternal medication: Recommendations for drugs in the eleventh WHO model list of essential drugs (2003)
    (http://www.who.int/child-adlescent-health/publications/NUTRITION/BF_MM.htm )
    WHOが様々な疾患に使用する様々な薬について、授乳の適・不適を示したガイドライン
2005/3/16 作成
2010/2/10 一部改訂
2015/3/20 一部改訂
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