「インターネットでの母乳売買に関する緊急声明」

2015年7月9日
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会
学術事業部

　インターネットを介する「母乳の売買」に関して警鐘を鳴らす報道が出ています。
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会は、以下の４点を強調してお伝えします。

１）母乳はほぼすべての乳児にとって最適な栄養です。
２）インターネットなどで売買される母乳はその安全性および成分に保証がなく、危険なものと考えるべきです。
３）母乳育児上の困難や不安を抱える女性は、根拠に基づいた適切な支援が受けられるようにするべきです。
４）適切な支援によっても母親の母乳が充分得られない場合には、人工乳を適切に利用するための支援、また母乳が必要な子どもには安全な母乳が届くシステムが確立されるべきです。

１）母乳はほぼすべての乳児にとって最適な栄養です。
　母乳はすべての乳児にとって最適の栄養であるだけでなく、免疫物質など人工的には作れない多くの物質を含んでいます。母乳と母乳育児は、子どもだけでなく母親に対しても、他には代えられない栄養上の利益と栄養以外の利益をもたらすことや、さらに乳児期の成長発達だけでなく小児期や成人になってからの健康も向上させるということが種々の研究によって明らか になってきています。
American Academy of Pediatrics: Policy statement Breastfeeding and the use of Human Milk. 2012　Executive Summary（日本語訳）

２）インターネットなどで売買される母乳はその安全性および成分に保証がなく、危険なものと考えるべきです。
　最近インターネットで売買されていた「母乳」を分析した結果、 希釈した人工乳が混入されていたこと、細菌汚染があったと言う報道がありました。この報道を受けて、厚生労働省より注意喚起の通達が出されました。http://www.jaog.or.jp/news/bonyu.pdf
つまりインターネットなどで売買される母乳に関しては、その成分および安全性に関する保証はなく、感染性のあるウイルスについてもチェックされていないため、このような母乳を利用することは危険なことなのです。

３）母乳育児上の困難や不安を抱える女性は、根拠に基づいた適切な支援が受けられるようにするべきです。
　産科医療や新生児ケアに関わる施設は、すべての女性が安全で安心な環境で育児を開始し継続できるように支援することが求められています。「UNICEF/WHOの母乳育児成功のための 10ヵ条」を遵守することは、母乳だけで育てることができない女性に対しても適切な情報と支援を提供するとともに、乳児が必要な栄養を与えられ、成長を保証されることにつながります。

４）適切な支援によっても母親の母乳が充分得られない場合には、人工乳を適切に利用するための支援、また母乳が必要な子どもには安全な母乳が届くシステムが確立されるべきです。
　適切な支援によっても母親の母乳が充分得られない場合には、人工乳を適切に利用するための支援がなされるべきです。
　また極低出生体重児や病的新生児にとって、母乳は命にかかわる疾病予防や治療のために極めて重要です。医学的に母乳が必要な乳児にとっては、本人の母親の母乳が最適ですが、適切な支援によっても母親の母乳が充分得られない場合には、 厳格に管理された安全な他の母親の母乳を与えることが最も望まれます。現時点では日本では母乳バンクが未だ整備されておらず昭和大学江東豊洲病院以外にはありません。そのような中でも、「母乳バンク」か「もらい乳」かという形態にかかわらず、必要な子どもには安全な母乳が届くシステムが整備されるべきです。

参考文献
1, Gribble KD.Biomedical Ethics and Peer-to-Peer Milk Sharing, Clinical Lactation, 2012, 3(3), 109-112
http://www.ilca.org/files/education_and_research/webinar_handouts/Gribble_18June_Handout.pdf
2, Landers S, Hartmann BT.Donor human milk banking and the emergence of milk sharing. Pediatr Clin North Am. 2013, 60(1):247-60
3, Taylor EC,Labbok MH.Donor Human Milk Access and Use in the United States: Findings and Recommendations. Carolina Breastfeding Institute.1-131,2014
http://breastfeeding.sph.unc.edu/files/2014/11/DHM_I_Report_May-15-cost-truncated.pdf