投稿日:2018.12.01
消費者庁における乳児用調整液状乳(液体ミルク)の認可基準設定・表示許可等の 一部改正に関する母乳育児支援連絡協議会の声明
2018年8月消費者庁において、乳児用調整液状乳(液体ミルク)の許可基準設定、表示許可等の一部改正が行われた。乳児用ミルクは母乳以外の栄養も必要とする乳児の健康を守るための製品であり、小児・成人の食品とは異なり厳密な成分の規定や販売促進に関する法制の整備が重要であることから、当団体ではこの改正を高く評価し、広く周知されることを願って声明を発表する。
わが国では昨今の度重なる災害を経験し、母乳代用品としての乳児用液状乳、いわゆる「液体ミルク」の導入が提案されてきた。これを受けて政府では国内での液体ミルク製造に関して、関係者間での調整・検討が行われてきた。
厚生労働省の調査によれば、妊娠中の女性の9割以上が母乳で育てることを希望している1)。反面「母乳が不足しているのではないか」という不安感から、(医学的には)不足していないにもかかわらず乳児用ミルクを使用する母親は多い。そのような不適切な乳児用ミルクの使用は、授乳回数の減少につながり、乳房内への母乳の過度な貯留を引き起こす。その結果、生理的反応として母乳分泌が抑制され、母乳育児が続けられなくなることが往々にして認められる。
このような現状をふまえて、新たに液体ミルクに関する規定を作成するにあたっては、単に使用方法、保存方法などの取り扱いについてだけでなく、母乳育児を保護するためにも配慮されなければならない。
消費者庁の「健康や栄養に関する表示の制度について」において以下の2つの設定・改正が公表された。(平成30年8月8日)
- 特別用途食品における乳児用液体ミルクの許可基準設定について
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180808_0003.pdf以下の3項目が設定された。(引用)
- 特別用途食品における乳児用調製乳の区分追加
乳児用液体ミルクの名称を乳児用調製液状乳とした上で、新たに「乳児用調製乳」の区分を追加し、その下に「乳児用調製粉乳」及び「乳児用調製液状乳」 の区分を設定。 - 乳児用調製液状乳の必要的表示事項を規定
当該食品が母乳の代替食品として使用できるものである旨(ただし、乳児 にとって母乳が最良である旨の記載を行うこと。)、標準的な使用方法等の必要 的表示事項を新たに規定。 - 乳児用調製乳の許可基準にセレンを追加(平成 34 年4月1日から適用)
食品衛生法に基づく食品添加物の規格基準の改正に係る検討状況を踏まえ、新たに成分組成の基準に、セレンを追加。
- 特別用途食品における乳児用調製乳の区分追加
- 「特別用途食品の表示許可等について」の一部改正についてhttp://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180808_0006.pdf
別添2 特別用途食品の取扱い及び指導要領
(3) 表示等の取扱い
ア 表示の内容、広告等については、虚偽又は誇大な記載をすることのないようにすること。
なお、乳児用調製乳においては、乳児にとって母乳が最良である旨の記載の妨げとなることを防止するため、当該製品が乳児にとって最良であるかのように誤解される文章、イラスト及び写真等の表示は望ましくない。
これらの2つの設定により、今後の乳児用粉ミルク・液体ミルク製品の表示が適正に行われることが期待される。特に、「特別用途食品の表示許可等について」の一部改正で、もともとの「表示の内容、広告等について誇大な記載がないよう」という記載に加えて、今回、具体的に乳児用調整乳の表示と広告における誇大記載を戒めている点は非常に重要である。
日本は世界保健総会において1994年以降、WHOの「母乳代用品のマーケティング(販売活動)に関する国際規準」(1981年)2)(以下、国際規準)に賛成している。この国際規準では、乳児用ミルク(母乳代用品)と母乳が同等のものであるかのように誤解される文章や、この商品を使えばこのような健康な子どもに育つと想起されるようなかわいい赤ちゃんのイラストなどは禁止されている。また食品の国際規格であるコーデックスの乳児用調整乳の基準でも母乳代用品の表示について同様に規定されている3)。
現在まで日本では国内法がなかったため、様々な販売促進活動が行われてきた。母乳の成分は、乳児用粉ミルク・液体ミルクとは異なっている。例えばアルブミン・オリゴ糖などの種類や量が異なっていること、母乳は乳児の健康に寄与する免疫物質・ホルモン・成長因子を含有していることなどが挙げられる。母乳と乳児用ミルクとを同等のものであると誤認させる可能性がある表示は不適切である。
妊娠中・母乳育児中の女性が過剰な販売促進活動を受け、不必要に乳児用ミルクを使用することで、本来の希望とは違った育児の形になってしまうのは望ましいことではない。医学的に乳児用ミルクを必要としている乳児と母親には、公正な販売活動と流通により適切で十分な情報が提供されるように規定していくことが重要である。 今回の改正は、食品国際規格や国際規準に沿った形で不適切な販売活動を規制し、適正な販売・流通を促進するための重要な根拠となるであろう。
母乳育児支援連絡協議会では、今回の消費者庁の制定を高く評価する。今後も、食品国際規格や国際規準に準拠することにより、母乳育児を阻害することなく、適正に乳児用液体ミルクの販売・流通が行われることを注意深く見守っていきたい。
2018年12月1日
母乳育児支援連絡協議会
一般社団法人日本母乳の会
代表 吉永宗義
一般社団法人日本母乳哺育学会 理事長 水野克己
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 代表 田中奈美
NPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本 代表 萩原有希子
(五十音順)
母乳育児支援連絡協議会は、4つの団体から構成されている。4団体はそれぞれあるいは協力して乳幼児栄養の支援を行っている。
参考
1) 厚生労働省. 平成27年度乳幼児栄養調査結果の概要.結果の概要.第1部 乳幼児の栄養方法や食事に関する状況. p.4
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134207.pdf(参照 2018.10.31)
2) WHO. The International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes, 1981. 母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(邦訳全文)
(参照 2018.10.22)
3) Codex Alimentarius. Standard for infant formula and formulas for special medical purposes intended for infants, Codex Stan 72, 1981, revision, 2007. p.11-13
http://www.fao.org/input/download/standards/288/CXS_072e_2015.pdf(参照2018.10.22)