投稿日:2011.07.04
ヒトT 細胞白血病ウイルス(HTLV-1)と母乳育児に関する JALC の見解
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)と母乳育児に関する JALCの見解
JALC Position Paper on HTLV-1 and Breastfeeding
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 学術委員会
Japanese Association of Lactation Consultants(JALC)
2011年6月11日
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)はATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV-1関連脊髄症)など重篤な疾患の原因であり、これらの疾患の有効な治療法は残念ながら未だ確立されていない。
こうしたことから、このウイルスによる感染を可能な限り減らし、将来の発症者を減少させるため、新たな感染を予防する対策を速やかに実施する必要があるとされた。また、HTLV-1の感染経路の6割以上は、母乳を介した母子感染であることから、全ての妊娠している女性を対象に抗体検査が実施されることとなった。この抗体検査における注意点として、スクリーニング検査で陽性の場合必ず確認試験を実施する必要がある。確認試験で判定保留の場合はPCR法を行なうことを提案するなど慎重に判断しなくてはならない。
今までの研究によって人工乳哺育によって感染のリスクが一定程度低減できることが報告されているが、人工乳のみならず凍結母乳や生後3ヵ月までの短期間の母乳育児も人工乳と同程度の感染のリスク低減が報告されている(3ヵ月以下1.9%、凍結母乳3.1%、人工乳3.3% (参考資料2))。
| 母乳哺育(3ヵ月以下) | 母乳哺育(4ヵ月以上) | 凍結母乳 | 人工哺育 |
| 1.9% (3/162) | 17.7% (93/525) | 3.1% (2/64) | 3.3% (51/1553) |
近年長期間の母乳育児には感染防御などの免疫効果だけでなく、認知能力の向上や、成人後の高血圧、肥満、糖尿病に対する予防効果などのメリットがあることが知られてきているが、短期間であっても母乳には腸管免疫への作用や異種蛋白としての影響がないことなど、多くのメリットがある。
さらに、日本ではもともと混合栄養が非常に多いので、HTLV-1の予防のために母乳の割合を減らせばリスクを軽減できると考える医療者や母親がいるかもしれない。しかし、HTLV-1と同じレトロウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の場合、感染率は母乳のみの場合と比べて混合栄養の場合が数倍高いことが判明している(参考資料7〜9)。
HIVと同様にHTLV-1においても、混合栄養が母乳だけで育てる場合より感染率を高める可能性を示唆する研究がある。症例数は多くないが、人工乳3.5%、短期母乳(6ヵ月以下)3.5%、長期母乳(7ヵ月以上) 15.8%、母乳のみ (短期)0.0%、混合栄養(短期)10.0%、母乳のみ(長期)15.1%、混合栄養(長期)18.5% となっている(参考資料6,後半は嶽崎の了解をえて二次解析した数値)。従って、情報提供の際には、混合栄養が母乳のみや人工乳のみの場合より感染のリスクを高めるかもしれないことに留意するべきであろう。
母乳の利点を子どもに与えつつHTLV-1感染を少なくする方法として、生後3ヵ月まで母乳だけで育てその後人工栄養にする方法、または凍結母乳を与える方法という選択肢があることを情報提供するべきである。また、我々、母と子の健康を支援する立場にある者は、前述したように、最近解明されてきた母乳育児の利点を視野に入れたより幅広い見地からの情報提供を行って、母親自身が自らの考えで栄養法を選択できるように支援するべきである。
参考資料
- 山口一成:HTLV-1感染症.感染症の話,IDWR 2011年第7週, 国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k2011/2011-07/2011k07.html (2011年6月7日確認) - 厚生労働省科学研究費補助金厚生労働省科学特別研究事業 HTLV-Iの母子感染予防に関する研究班 平成21年度 総括・分担研究報告書(研究代表者:斎藤 滋)、平成22年3月
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/02.pdf (2011年6月7日確認) - 「HTLV-1母子感染予防対策 医師向け手引き」平成21年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「HTLV-1の母子感染予防に関する研究」報告書(改訂版)(研究代表者:齋藤 滋)、平成23年3月
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/04.pdf (2011年6月7日確認) - 平成22年6月8日付け厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知「ヒト白血病ウイルス-1型(HTLV-1)母子感染に関する情報の提供について」: ATLとHTLV-1に関するQ&A.
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/qa.html (2011年6月7日確認) - HTLV-1母子感染予防対策保健指導マニュアル(改訂版):平成22年度厚生労働科学特別研究事業 「ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)母子感染予防のための 保健指導の標準化に関する研究 」(研究代表者:森内浩幸),厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課、平成23年3月
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/05.pdf (2011年6月7日確認) - 嶽崎俊郎. 南九州のHTLV-I母子感染に関する血清疫学的研究-短期母乳摂取児のリスクについて-.日児誌,1991, 95(6): 1376-1384
- Coovadia HM et al. Mother-to-child transmission of HIV-1 infection during exclusive breastfeeding in the first 6 months of life :An intervention cohort study. Lancet, 2007, 369(9567): 1107-1116.
- Iliff PJ et al. Early exclusive breastfeeding reduces the risk of postnatal HIV-1 transmission and increases HIV-free survival. AIDS, 2005, 19(7): 699-708.
- Kuhn L et al. High uptake of exclusive breastfeeding and reduced early post-natal HIV transmission. Public Library of Science ONE. 2007, 2(12): e1363.
