ポイントは、「時計ではなく赤ちゃんをみて」「欲しがるときに欲しがるだけ」です。つまり、回数や時間を決めるのではなく赤ちゃんの空腹・満腹のサイン(下記*参照)にあわせて授乳すると上手くいきやすいです。
授乳間隔には個人差が大きく、短い間隔で短時間の哺乳をする赤ちゃんもいれば一度に長く飲み次の授乳まで数時間空く赤ちゃんもいます。日によって、また1日の中でも哺乳のパターンはかわることがあります。出産後約1週間は1時間から3時間ごとか、もっと多いこともあります。それ以降しばらくは24時間に8から12回が平均的ですが、より多いこともあります。時間や回数を制限しない授乳がすすめられる主な理由を以下に紹介します。1つめは、回数を制限せずひんぱんに授乳すると母乳が作られる量を最も効果的に増やすことができ、赤ちゃんの必要とする量ともぴったりつり合う仕組みがあるからです。出産後3日目頃から急激に母乳の量が増えるときにプロラクチンなどのホルモンが鍵をることを、Q4でお伝えしました。ホルモンによる調節は出産後8日目頃まで主な役割を果たします。一方、出産後9日目頃からは「乳房がどのくらい空になったか」が母乳の量を調節します。母乳中には乳房がさらに母乳を作るのにストップをかける物質が含まれ、空になったらまた作る仕組みになっているので母乳を「ためて」からあげようとするのは、母乳を増やしたいときには得策ではありません。そして、この仕組みのおかげで母乳はだんだんと赤ちゃんが必要とする量にぴったり合うだけ作られるようになるので、時間や回数を制限しないことがとても大切なのです。ただし眠りがちで、生後1か月未満で授乳が24時間に8回を下回ってしまう赤ちゃんの場合は、起こして飲ませる必要がある場合もあります。
もう1つは、赤ちゃんがカロリーの高い母乳をしっかり飲めるからです。1回の授乳のうち前半の母乳よりも後半の母乳の方に脂肪が多くカロリーが高いことが知られています。片方の乳房からまだ飲みたいのに時間を決めて反対側に切り替えてしまうと前半のカロリーが低い母乳ばかりを飲むことになってしまい、体重が増えにくくなる等の問題につながることもあります。
さらに、赤ちゃんの空腹や満腹のサインにそわない授乳は赤ちゃん自身が食事や感情をコントロールする力に影響を及ぼしたり、将来の肥満につながったりする可能性も指摘されています。これは直接授乳だけではなく、搾ったおっぱい(Q18参照)やミルクを哺乳びんであげる場合にも当てはまります。
「時計ではなく赤ちゃんをみて」、親子ともに心地よい授乳タイムとなりますように。
*赤ちゃんの飲みたいサインhttps://llljapan.org/postpartum
【参考文献】
- NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(2015). 母乳育児支援スタンダード第2版, 医学書院 p16, pp112-114, p122, pp162-163
- BFHI 2009 翻訳編集委員会(2009). 赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース 「母乳育児成功のための10か条」の実践, 医学書院 pp178-182
- American Academy of Pediatrics. Is Your Baby Hungry or Full? Responsive Feeding Explained https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/feeding-nutrition/Pages/Is-Your-Baby-Hungry-or-Full-Responsive-Feeding-Explained.aspx (2024/11/20アクセス)
- NPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本. 赤ちゃんは十分に母乳を飲んでいるかしら? https://llljapan.org/wp-content/uploads/info01.pdf (2024/12/7アクセス)
【文責】山本歩 JA長野厚生連佐久医療センター(小児科医・IBCLC)
【ピアレビューアー】黒澤かおり 中村和恵
【完成年月日】2024年12月5日
【免責】この情報は医学的な診断や治療の代替となるものではありません。詳しくはかかりつけ医とご相談ください。