ご自身と赤ちゃんの健康のために、食事について調べていらっしゃるのですね。食べることは健康の基本で大切ですね。母乳については、お母さんの食事の内容にかかわらず、赤ちゃんにとって最高の母乳が作られる仕組みがあるのです。ただし、笑顔で母乳育児できるのは、お母さんの健康あってのことです。育児するお母さんの健康は、以下に記すようなバランスの取れた食生活に支えられます。
授乳中の食事に関する最新の情報は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」1) に詳しい情報が載っています。授乳中の女性に必要なエネルギーは妊娠前に比べて毎日、塩にぎりならば2つ分強(350kcal程度)相当の上乗せを提案されています。
(例:同基準p78に記されたエネルギーの1日必要量は、標準体型の30〜49歳で身体活動レベルふつうの女性ならば基本の2050kcalに350kcalを加えた2400kcal程度)
母乳育児でも混合栄養でも、バランスのとれた食事をするには主食(ごはん・パンなど)・主菜(肉・魚・豆腐など)・副菜(野菜・海藻など)それぞれを組み合わせて食べるのが簡単です2)。(Q20ビタミン・ミネラル参照)
では、赤ちゃんのお世話に夢中になって食事を食べそこなったならばどうなるのでしょう。 現在分かっているのは、エネルギー摂取量が1日当たり1500kcal未満が長く続くような極端な場合を除き、母乳の分泌 _量や赤ちゃんの発育に影響を与えない事実です3)。食事に関わらず母乳の量はたくさん出すと増えて、出すのを控えたら減ります(Q5参照)。そのすごい母乳分泌の仕組みのおかげで、災害時などに一時的に栄養が取れなくても,安心してあげられる成分の母乳が出るのです(Q13参照)。
さて「乳腺炎・食べ物」で検索すると問題解決が遠のく結果が多いです。それはケーキや焼き肉など脂っこいものを避ければ乳腺炎の予防や治療ができるという、科学的根拠のない結果です4)。 乳腺炎の予防として科学的根拠のある有効な方法は疲れすぎないよう気をつけることと、赤ちゃんが欲しがるたびに欲しがるだけ飲ませて、作られた母乳とおっぱいから出る(直接授乳でも搾乳でも)量を等しくすることです。(具体的な対応方法はQ19乳腺炎参照)。いつもの姿勢(Q6参照)でいつものタイミングに授乳することが、科学的な根拠のある有効な乳腺炎の予防・治療法です4)。一方、乳腺炎の予防や治療に対して質 _の高い科学的根拠のあるサプリメントやお茶はまだないです。ABM (母乳育児医学アカデミー)という国際学会からの情報5)でも乳腺炎と食事の関係は記されていません。
なお、コーヒーなどに含まれるカフェインは、1日1〜2杯程度であれば赤ちゃんへの影響はほとんどありません。たくさん飲んだ場合には赤ちゃんが眠りにくくなることがあります3)。
母乳育児に対して食事ならばご自身でコントロール出来そうに思って検索されている方もいらっしゃることでしょう。赤ちゃんのために自分にできることを調べた事実が素晴らしいです。母乳育児は特別な食べ物を食べたり、特定の食べ物を避けたりしなくてもできます。どうかご自身をいたわって心地よくお過ごし下さい。母乳を出す役割をするホルモンのオキシトシンは、リラックスするとより出やすくなるからです。
【参考文献】
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」厚生労働省 p.70−78、p.356-366
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html(2025/04/28確認) - 「お母さんと赤ちゃんの健やかな毎日のための10のポイント」国立健康・栄養研究所
https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html(2025/04/28確認) - 「母乳育児支援スタンダード 第3版」NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会編
医学書院、2025年2月1日刊 p.396ー399、p.459ー460 - 「医師のための乳児栄養Q&A」戸田千 著
南山堂、2024年4月10日刊p.2−51、p.77−100 - 「ABM臨床プロトコル#36 乳腺炎スペクトラム」大山牧子 他訳/Academy of Breastfeeding Medicine(2022)
https://jalc-net.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/ABM_36_2022.pdf(2025/04/28確認) - 「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」厚生労働省(2021)
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/shokuji/
(2025/04/28確認)
【文責】戸田 千 坂出市立病院 産婦人科 (産婦人科医・IBCLC)
【ピアレビューアー】山本よしこ 石井真美
【完成年月日】2025年5月14日
【免責】この情報は医学的な診断や治療の代替となるものではありません。詳しくはかかりつけ医とご相談ください。