母乳育児は、母子の健康に多くの利益をもたらすことが広く知られています。しかし、実際の授乳の場面では、やり方に戸惑いや不安を感じたり、思うようにいかないことで自分を責めてしまったりすることも、決して珍しいことではありません。
母乳育児がうまくいくかどうかは、お母さん個人の努力や「頑張り」によって決まるものではありません。近年の研究からは、妊娠期から産後に至るまで、科学的根拠に基づいた継続的な支援を受けられる環境が整っているかどうかが大きく影響することがわかっています。
母乳が作られる生理的なメカニズム(Q4、5)を理解することや、適切な抱き方・乳房の含ませ方(Q6)を学ぶこと、さらに乳房のトラブル(Q19)や赤ちゃんの体重増加に関する悩みなどに対して、必要なときに適切な支援を受けられることがあってこそ、お母さんは安心して母乳育児を続けることができるのです。
こうした支援を継続的に提供するうえで、出産施設が果たす役割は極めて重要です。1989年、世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)は、出産施設が母乳育児を支援するために守るべき指針として、「母乳育児成功のための10カ条」を発表しました。
この指針を実践し、施設全体で母乳育児を支える体制が整っていると認められた出産施設は「赤ちゃんにやさしい病院(Baby Friendly Hospital:以下BFH)」として認定されます。BFHは、単に母乳育児を勧めるだけの施設ではありません。さまざまな理由から母乳育児が困難な場合や、それを希望しない場合であっても、母子にとって最適な栄養方法を一緒に考え、温かく支援する「お母さんにもやさしい」場所であることを大切な理念としています。
この指針は、最新の知見や社会情勢の変化を反映し、2018年に「母乳育児がうまくいくための10のステップ」へと改定されました。新しい「10のステップ」は、施設の方針やスタッフの能力向上といった体制整備から、出生直後のケア、さらには退院後の地域との連携に至るまで、一つ一つ階段のように積み上げることで母乳育児がうまくいくように構成されています。
2026年1月現在、日本でBFHの認定を受けている施設は多くはありませんが(60施設)、認定の有無にかかわらず、「10のステップ」を指針として母乳育児支援に取り組んでいる施設は少なくありません。これから出産を迎えられる方は、検討している施設がどのような支援体制を整えているのかを、ぜひ確認してみてください。妊娠中から「『10のステップ』に沿った支援を受けたい」と伝えて相談することは、お母さんと赤ちゃんが健やかなスタートを切るための大切な一歩となるでしょう。
【参考文献】
- WHO/UNICEF. Protecting, promoting and supporting breast-feeding: the special role of maternity services. A joint WHO/UNICEF statement. 1989 http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/39679/1/9241561300.pdf
- 母乳育児がうまくいくための 10 のステップ(2018 年改訂版)https://jalc-net.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/10steps_2018_1989.pdf
- WHO. Implementation guidance: protecting, promoting, and supporting breastfeeding in facilities providing maternity and newborn services: the revised Baby-friendly Hospital Initiative 2018 https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/272943/9789241513807-eng.pdf?sequence=19
【文責】 中村和恵 岡山市保健所(公衆衛生医師・IBCLC)
【ピアレビューアー】黒澤かおり 山本歩
【完成年月日】2026年1月16日
【免責】この情報は医学的な診断や治療の代替となるものではありません。詳しくはかかりつけ医とご相談ください。
