『上の子を出産した産院では、退院時にミルクの試供品をもらいました。先日2番目の子どもを出産した別の産院では、調乳指導もなくミルクの試供品ももらいませんでした。どうしてでしょうか?』
母乳代用品(乳児用ミルクなど)の販売や宣伝に関しての国際的な約束事として、「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」(以下、「国際規準」)というものがあるのをご存知でしょうか?「WHOコード」と呼ばれることもあるので、聞いたことがあるかもしれません。
「国際規準」は、世界保健機関(WHO)の世界保健総会(WHA)において加盟国により承認された国際的な規範(コード)です。1981年に最初に決議され、その後も関連決議が付け加えられて、現在も有効で、日本も1994年に承認しています。
「国際規準」の目的は、すべての赤ちゃんの健康を守るために、安全で十分な栄養を供給することです。母乳育児を守ると同時に、必要な場合には乳児用ミルクを適切に用いることが含まれています。
たとえば、母乳で育てるつもりの母親でも、「母乳に近い」と書いてあるミルクの試供品をもらったら使ってみたいと思うかもしれません。また、「脳の発育を促進する成分が含まれている」「母乳に不足しがちな栄養が含まれている」と書いてあれば、母乳だけでは栄養が不足するのではないかと心配になるかもしれません。
そこで、「国際規準」は、母乳代用品や哺乳びんなどの製品について、一般の人や母親に対する宣伝、保健医療機関や店舗での無料サンプルの配布、製品のラベルに「母乳に近い」などの表示をすることを禁止しています。これは母乳代用品が不必要に用いられるのを防ぐためです。また、「国際規準」は、生後6か月未満の赤ちゃんの飲料すべて、フォローアップミルクなどにも適用されます。
様々なメディアで目にするミルクの宣伝に影響されて、あるいは、産院でもらった試供品を使っているうちに、母乳だけで育てることが難しくなることがあります。一方、乳児用ミルクが必要な赤ちゃんのためには、保健医療者が正しい調乳方法や適切な使用方法を個別に伝えなければなりません。産科施設での企業派遣員による調乳指導は「国際規準」の違反です。
WHOの決議である「国際規準」は、個人ではなく政府、保健医療システム、企業にむけての呼びかけです。母乳育児を守ると同時に、乳児用ミルクが必要な赤ちゃんには高品質で安全な製品が持続的に供給され、すべての赤ちゃんが健康に育つための環境が整えられることを求めています。
しかし、残念なことに、日本では「国際規準」が守られていません。母親が赤ちゃんの栄養についてインターネットで調べると、医学的裏付けのある母乳育児についての説明よりも、企業がスポンサーになっている記事のほうが多く見つかります。インフルエンサーは企業からお金をもらっていることがあります。得られた情報はだれが発信したものでしょうか。WHOは、インターネットを利用したデジタル・マーケティングにも警鐘を鳴らしています。
あなたが2番目のお子さんを出産した産院は、「国際規準」を守っているのです。赤ちゃんの栄養についての情報は、医学的に妥当で企業とは関わりのないところから得るようにするといいでしょう。
IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)は、赤ちゃんの栄養に関して国際的な認定をうけた専門家です。また、ラ・レーチェ・リーグのリーダーも国際的な支援団体から認定を受け、お母さん同士のサポートをしているボランティアです。どちらも「国際規準」を守ることが義務づけられていて、商業的な影響のない科学的根拠に基づいた情報を提供しています。
「国際規準」については、以下のwebsiteに詳しく説明があります。ぜひ、ご覧ください。
【参考文献】
- 母乳代用品のマーケティングに関する国際規準について. 母乳育児支援ネットワーク. https://bonyuikuji.net/?p=317
- 母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(全文). https://bonyuikuji.net/wp-content/uploads/2025/08/International_Code_Japanese.pdf
- すべての赤ちゃんを社会が守る、国際的な約束〜母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(WHOコード)〜. https://llljapan.org/whocode/
【文責】瀬尾智子(小児科医・IBCLC)
【ピアレビューアー】本郷寛子 三宮理恵子
【完成年月日】2026年1月29日
【免責】この情報は医学的な診断や治療の代替となるものではありません。詳しくはかかりつけ医とご相談ください。
