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 被災地に人工乳が送られています。これは人工乳が必要な赤ちゃんの生命に直結することだけに、本当に重要なことです。しかし当たり前ですが人工乳だけを送っても、安全な水と火と、清潔な容器(哺乳瓶は必ずしも安全ではありません)がないと、安全は保たれません。また「災害時にはストレスで母乳が出なくなることがあります」というような情報とともにミルク缶が配布されることは不適切です。母乳で育てている母親には、母乳育児を維持・継続出来るような支援が必要です。

 オーストラリアの研究者が先進国での被災地への乳児ケアのために具体的な支援キットを提唱しています。ここでは消毒しにくい哺乳びん(充分な数が入手できれば使い捨て哺乳びんを使用)はキットに含まれず、哺乳用のコップになっています。紙コップでも十分です。現場の状況に合わせてキットを考える材料にして下さい。
 関係者およびメディアへの転送はフリーです。

要旨

 災害管理機構は、たとえ先進国においても災害時においては乳児が弱者であることを認識している。しかしながら、乳児の養育に関わる者は災害時用備蓄品として必要なものについての情報をこれまで提供されてこなかった。災害管理機構は乳児の養育に関わる担当者に、災害時に乳児の養育に必要な備蓄物品について、母乳で育てられている児と人工乳で育てられている児とを区別して、正確かつ詳細な情報を提供する責務がある。人工乳で育てられている児を養育する者には災害時の必要物品と災害時における調乳の仕方を知らせる必要がある。母乳だけで育っている児に必要な災害時の備蓄物品(1週間分)は紙おむつ100枚、おしり拭き200枚である。人工乳だけで育っている児に必要な災害時の備蓄物品は、そのまま使える液体人工乳を使うか、粉ミルクを使うかによって異なる。

そのまま使える液体人工乳を使用する場合(1週間分)

  • 液体人工乳 56本
  • 水 84L(1日12Lとして計算)
  • 保存容器(蓋付きでつぶれない固さのもの)
  • 金属ナイフ
  • 小さなボウル
  • 乳首つき哺乳びん 56個
  • ジップロックのプラスティックバッグ 56個
  • ペーパータオル 220枚
  • 洗剤
  • 消毒液つきお手拭き 120枚
  • 紙おむつ 100枚
  • おしり拭き 200枚

粉ミルクを使う場合(1週間分)

  • 粉ミルク 900gの缶2つ
  • 飲料水 170L(1日24Lとして計算)
  • 保存容器(蓋付きでつぶれない固さのもの)
  • 蓋付きの大きな鍋(器具を煮沸消毒するためのもの)
  • やかん
  • ガスコンロ、マッチまたはライター、LPG 14kg (日本ではカセットコンロとカセットボンベ)
  • 計量カップ(お湯を量るためのもの。消毒できるように耐熱性のものがよい)
  • 金属ナイフ(粉ミルクを量るとき、平らにするのに使う)
  • 金属製のトング(滅菌物を取り出すため)
  • 金属か陶器のカップ(紙コップを使いすてにしてもよい)
  • 大きめのペーパータオル 300枚(手や器具を拭くため)
  • 洗剤
  • 紙おむつ 100枚
  • おしり拭き 200枚

人工乳の調乳は衛生に注意して行うべきである。児童保護機関は乳児を預かる保護者に対して、災害時に人工乳を調乳するのに必要な情報が行き渡るようにしなければならない。母乳だけで育てること、および、母乳育児を継続することは、保健担当機関だけでなく、防災活動として災害管理機構が推進するべきである。災害時に母乳だけで育てられているこどもの割合が多ければ多いほど、その地域はレジリエンス(困難な状況に適応し立ち直る力)を持ち、人工乳で育てられている子どもの養育者に支援をさしのべることができる。

Keywords: disasters, emergencies, infant formula, artificial feeding, breastfeeding, emergency preparedness 引用元 Gribble KD and Berry NJ: International Breastfeeding Journal 2011, Nov 7;6(1):16

http://www.internationalbreastfeedingjournal.com/content/6/1/16

要旨の日本語訳および注釈:大山牧子、瀬尾智子


【訳者附記】
 混合栄養で育てている母親への支援  人工乳だけで育っている児に必要な支給品(1週間分)を同じように渡しましょう。
そして次のような内容の言葉を添えるか、印刷物を配りましょう。

◆ 混合栄養で育てているお母様へ ◆
 このような状況で母乳育児を続けることはとても重要です。 母乳育児は赤ちゃんの命を救います。 母乳の中の感染防御因子(免疫など)が、非常事態で流行する可能性のある下痢や呼吸器感染から赤ちゃんを守ります。
これらの母乳の効果は赤ちゃんが飲む母乳の量が多いほど大きくなります。 ですから、これからも母乳育児を続けることはとても大事なことです。
本日人工乳が支給されましたが、まずは、急にたくさん足さないで震災前に使用していた量の人工乳を足していきましょう。 そして、欲しがるときに欲しがるままに母乳をあげ続けてみましょう。 お母さんのための食べ物や飲み物と、可能ならばプライバシーの保てる授乳用のスペースを優先的に確保するようにしましょう。 お母さん自身が少しでも体を休めてリラックスし、何かしら食べて十分な水分を取るように気をつければ、母乳の出をよくすることができます。

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