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はじめに

 このたびの地震と津波により亡くなられた方に哀悼の意を表し、被災されたすべての方に心よりお見舞い申し上げます。
 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)は、母乳育児支援の専門家団体として、災害時における母乳育児に関する情報を提供しています。詳細はhttps://www.jalc-net.jp/hisai/hisai.htmlにあります。
 今回は福島県の原子力発電所周辺に住む母親に適切な情報提供や支援がなされるように、以下の声明を発表します。

災害時でも母乳育児が継続できるように支援しましょう。

 災害時も母乳育児を続けることは重要です。母乳中の感染防御因子が被災者間で流行する可能性のある下痢やかぜから赤ちゃんを守ります。被災や避難生活によるストレスから一時的に母乳の量が減ることがありますが、母乳育児を続けることが緊張を和らげストレスを減らし、赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ母乳を与えることで母乳の量は回復します。また安全な水や衛生的な哺乳びんの確保が難しいため、人工乳が必要のないお子さんは母乳のみで、人工乳が必要なお子さんには衛生面に十分配慮した支援が必要です。詳しい内容は以下をご覧ください。
・災害時の母と子の育児支援 共同特別委員会
 「地震や水害にあった母乳育児中のお母さんへ」(2004年10月作成)
 →PDFはこちら(別ウィンドウで開きます)
・母乳育児団体連絡協議会
 「災害時の乳幼児栄養に関する指針」(2007年10月作成)
 →PDFはこちら(別ウィンドウで開きます)

原子力発電所の事故における被ばく防護策を
母乳育児中の母と子が受けられるようにしましょう。

 原子力発電所の近郊で退避や屋内待機の勧告を受けている地域の方は、専門機関の指示に従った対応策がとられ、必要な場合に汚染を取り除く処置(除染)や飛散する放射性ヨードの影響で発生する甲状腺がんを予防するためにヨウ素剤の投与が行われるでしょう1)2)
 ヨウ素剤による甲状腺がん予防策についてWHOや米国食品衛生局(FDA)は所定被ばく量を超えた新生児、乳幼児、小児、18歳未満の青年に加え妊婦や授乳婦を最優先に行うべきと勧告しています3)4)。
 妊婦や授乳婦については日本産婦人科学会が2011年3月15日付けで、被ばくをうけた妊娠婦人および授乳婦人に対する予防投与の勧告を出しました6)。
 子どもについては特に新生児や乳幼児で甲状腺がんが発生する危険が高いためヨウ素剤による予防が重要です。1986年のチェルノブイリ原発事故ではポーランドで小児への予防策が功を奏しました5)。同様に妊娠中や授乳中の母親が被ばくした場合の母親へのヨウ素剤投与も胎児や新生児への予防策として重要です。

ヨウ素剤による甲状腺癌予防策を受けても、
母乳育児を続けるように支援しましょう。

 JALCはヨウ素剤による甲状腺がん予防策を含んだ、原子力災害時における被ばく防護策に際して以下のことが広く周知され、被ばくされた方が安心して確実な防護策を受けられることを切望します。

(1)避難勧告の際は甲状腺に対する影響を考慮し小児や青年のみでなく、妊娠中や授乳中の母親の避難が最優先に行われるよう十分な配慮をすること。

(2)内部被ばくに対するヨウ素剤の予防投与は新生児や乳児のみでなく、妊娠中や授乳中の母と子に対しても有効であり、被ばく後早期(可能なら24時間以内)に最優先で投与されること。

(3)妊娠中や授乳中の母親や子どもに対しヨウ素剤が反復投与されると、胎児や新生児の甲状腺機能低下につながる可能性があるので、1回の投与で済むような配慮(最優先での遠隔地避難など)がなされること。

(4)ヨウ素剤の予防投与を受けた母親がそのまま母乳育児を続けても何ら問題がないこと。(ただし、一回の被ばく量が多い場合や長期間被ばくした場合は専門家の指示に従うこと)

(5)除染や内部被ばくの治療に際してやむを得ず母と子が引き離される際は子どもが感じる不安を考え、必要以上に長時間分離がされないように十分な配慮がされること。

(6)予防投与を行った新生児や小児に限らず、予防投与を受けた妊婦から出生した新生児においても一過性甲状腺刺激ホルモン低下を認める場合があり、定期的な血液検査で甲状腺機能の観察が行われる手配をすること。

 また、避難や屋内待機の必要がない地域の方であっても、放射性物質の飛散により母乳が汚染されるのではないかと心配している母親もおられるかもしれません。しかし、放射性物質による影響については、専門機関の判断に従って授乳中の女性が冷静に対応できるよう支援しましょう。例えば、安定化ヨウ素の予防投与は医師の判断のもとに行います。ヨードを含む消毒薬やうがい薬、ルゴール液は内服用ではなくヨウ素含量が少なく甲状腺がん予防効果がないことや、海藻を食べても十分な効果がない可能性があるとされています7)。

参考文献

  1. 緊急被ばく医療Q&A.独立行政法人放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター
    http://www.nirs.go.jp/hibaku/qa/
  2. 安定ヨウ素剤取扱いマニュアル.財団法人原子力安全研究協会.2003.
    http://www.remnet.jp/lecture/b03_03/index.html
  3. Guidelines for Iodine Prophylaxis following Nuclear Accidents. World Health Organization. 1999.
    http://www.who.int/ionizing_radiation/pub_meet/Iodine_Prophylaxis_guide.pdf
  4. U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER): Guidance Potassium Iodide as a Thyroid Blocking Agent in Radiation Emergencies. December 2001
    http://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/ucm080542.pdf
  5. Nauman J, Wolff J.Iodide prophylaxis in Poland after the Chernobyl reactor accident: benefits and risks.Am J Med.94(5):524-32.1993.
  6. 福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊娠・授乳中の女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)日本産科婦人科学会.2011.
    http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110316.pdf
  7. ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません–インターネット等に流れている根拠のない情報に注意–.独立行政法人放射線医学総合研究所.2011.
    http://www.nirs.go.jp/index.shtml