Q:母乳を飲ませていますが、子どもに母乳をとおして影響はあるのでしょうか?
A:ニュースを聞いて母乳をあげ続けると子どもに放射性物質を与えることになるのではないかと不安なのですね。
A−1 まず、授乳中のあなたにどのくらい放射性物質の危険があるかを調べてみましょう。
避難・屋内待避区域外では、大気を吸ったり水道水を飲んだりすることによってあなた自身に健康被害が起きないと言われています。
近郊の都道府県の水道水に1歳未満の乳児の基準を超える放射性物質が検出されたという報道がありました。測定データは変動します。地域の報道には特に注目が必要です。
- 水道水に関しては、報道されているように大人の基準値を下回っているので、授乳中の女性が飲んでも問題ありません。(資料6.7.8.9.10)
- 食べ物についてのデータを見ると、最大値を示した野菜を約10日間にわたって食べ続けたとしても、通常の生活をしていて受ける自然放射線量のほぼ半年分にとどまるものです。さらに、ヨウ素131に関しては半減期が早いので実際の放射線量はこの計算より下回ります。10日間食べ続けたとしても、母乳をやめる必要は全くありません。 (資料5)
A−2
次に母乳のなかにどのくらいの量の放射性物質が出るかというデータを見てみましょう。
放射性物質の母乳への移行を推定した報告があります。それによると、放射性物質は母乳中で濃くなるわけではなく、母親が摂取した量と比べ減少します。現時点では、母乳育児中のひとは母乳育児を継続することが勧められます。
- ヨウ素131を例にとってみましょう。ヨウ素131は体外での半減期は8日ですが、摂取したヨウ素は体内から排泄されますのでより短くなります。研究によると、母乳中でのピークは9時間で半減期は12時間と短く、計算では母親の摂取したヨウ素の27.9%が母乳中に移行することになります。
- 水道水1Lあたり210ベクレルのヨウ素131が含まれる水を1日に2L母親が飲んだとします。母親の摂取量の27.9 %が母乳から乳児に移行するとされていますので、210 x 2 x 0.279で計算すると117ベクレルになります。 母親が飲料水をペットボトルから摂取し(0ベクレル)、調理用に水道水(210ベクレル/L)を1L使ったとすると、ヨウ素131の摂取量は母子ともに1/2に減ります。
- つまり、母親がヨウ素131を210ベクレル/L含む水または調理用水を2L飲んでも母乳で育てられている児には117ベクレルしか移行しないので、乳児の暫定基準値程度ですみます。さらに、食品衛生法の暫定基準はそのままの濃度で1年間食べ続けた場合を想定しており、この状態が仮に続いても月単位であれば、母親および子どもへの影響はないと考えられます。
- 一方、生後3ヵ月の人工乳で育っている子どもも(1日哺乳量を800mlとすると)、210ベクレルのヨウ素131水道水で調乳すると、210 x 0.8=168ベクレルとなり、母乳で育てられている児よりも高濃度のヨウ素を摂取することになるので、人工乳の場合は、より安全なペットボトルの水での調乳が望ましいといえます。
- 待避圏外のような母親が摂取する放射性物質の濃度が低いと推測される環境に住んでいる場合、子どもへの影響を心配することはないと考えられます。
チェルノブイリ事故という、今回よりも桁違いの放射線汚染を経験した事故で、牛乳と母乳の両方を検査した研究によると、待避圏外の土地では、母乳中の放射製物質はきわめて低く、いずれの報告でも母乳育児を継続することが勧められていました。 - つまり、以上のことを総合すると、避難・屋内待避区域外に住んでいる場合でも、現状のような災害時では、母乳の免疫作用による感染予防効果が大きいこと、人工乳や安全な水の確保が困難なことがあることなどから、母乳を続けることは平常時以上に乳児に利益をもたらします。母乳を続けた方がメリットは大きいでしょう。
Q:福島県に住んでいます。母乳を飲ませていますが、子どもに母乳をとおして影響はあるのでしょうか?
A:放射線は目に見えないし、いつまで自分に影響があるのかもわかりにくいので、不安なのですね。
3月19日付けの社団法人日本産婦人科医会の声明によると、現時点で報道されている被ばく線量では、原発のすぐ近くで大量に被ばくした場合は別として、妊婦、胎児、授乳等には特に悪影響を及ぼさないレベルであると考えられます。
また災害時においては、母乳の免疫作用による感染予防効果が大きいこと、人工乳や安全な水の確保が困難なことがあることなどからいっても、母乳を続けることは平常時以上に乳児に利益をもたらします。母乳を続けた方がメリットは大きいでしょう。
Q:母乳に放射性物質が検出されたというニュースを見ました。やはり母乳はやめたほうがいいのでしょうか?
A:「母乳から放射性物質が検出された」と聞いて、不安になられたのですね。
報道では、市民団体が母乳の検査をして、1キロ当たり最大 36.3ベクレルの放射性ヨウ素131が検出された等と発表されていましたね。
結論から申し上げると、母乳をやめる必要はありません。母乳は人工乳と同等なものではなく、母子の健康にとって大きな利益があります。人工乳にする事で一生涯にわたる大きな利益を失うことになります。また水や粉ミルクなら安全であるという保証はありません。
災害時の母乳は、感染予防効果や資源を必要としないことなど、平常時以上に乳児に利益をもたらします。母乳を続けた方がメリットは大きいでしょう。
1キロ当たり最大 36.3ベクレルという値は、「食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100ベクレル/kgの3分の1程度です。測定日は3月24日と3月30日で、各地の水道水に放射性ヨウ素131が検出されていた時期ですが、その後この測定値は減少し続けています(資料20)。
放射性ヨウ素131の半減期は8日で、どんどん安定物質に変化していきます。それ以外にも摂取したヨウ素は体内から排泄されていくので、単純な半減期の計算以上に減少していきます。実際発表された市民団体のデータでも、6日後の検査で31.8から8.5ベクレルに低下しています。
日本産婦人科学会の資料(資料21、22)で細かく計算されているように、1 リットルあたり100 ベクレルの放射性物質を、毎日800ml赤ちゃんが飲み続けた場合でも、赤ちゃんの甲状腺被曝量が危険な域に達するのに200日かかるという計算になります。
上記のデータから考えて、母乳をやめる必要はありません。
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