投稿日:2021.09.08
日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン 2021』(案)へのパブリックコメント(抜粋)
2021年9月8日
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)学術事業部
貴学会の「食物アレルギー診療ガイドライン 2021」(案)に対し、コメントの機会を設けていただき、感謝申し上げます。
当会は、母乳育児支援を専門とする国際資格である、国際認定ラクテーション・コンサルタントおよび乳幼児の栄養に関心のある者の非営利団体で、会員は医師、助産師などの医療専門職をはじめ、医療専門職ではない者も含まれています。
当会として、最初にお伝えしておきたいことは、今回のコメントは、母親が希望する乳児栄養に対する社会全体からの支援や、コミュニケーションスキルを習得した医療者による医学的なエビデンスに基づいた乳児栄養への支援を求めているものであり、生後6か月間の完全母乳栄養に固執しているものではないということです。また、マスメディアがガイドラインの部分的な情報を伝えることによって、母乳だけで育てている母親が不安になることや、アレルギーを予防するためには生後早期から混合栄養にすべきであると言った、誤った風評が広がることを危惧しています。学会のガイドラインは診療の拠り所となるだけでなく、社会的な影響も大きいため、図やイラストが単独で引用され、誤った解釈で報道されることがないよう、ご配慮をお願いします。
(中略)
新生児期に母乳だけで育てるためには、産科施設を中心に世の中がお母さんと赤ちゃんを支援する体制を構築することが必要で、産科施設のスタッフのトレーニングが有効とのエビデンスがあることを、WHO やユニセフなどが 30 年以上前から訴え、スタッフのトレーニング用テキストも定期的にアップデイトされています8)。
母乳栄養推進のためには、社会全体が母乳育児に理解を示し、医療者においては母乳育児支援についてのエビデンスに基づく医学的・心理的な支援についてトレーニングを受けることが不可欠です。今の日本で「母乳育児を強要された」と傷ついている母親が多いのは、「母乳育児がうまくいかないのは母親の責任」と追い詰める風潮があるからではないでしょうか。「希望する栄養法を遂行できなかったため傷ついた母親がいるのは医療者の支援不足が原因であり、母親の責任ではない」ということが社会全体の常識となれば、傷つく母親が減るのではないかと存じます。
(中略)
母乳育児には、以下のような様々な利点があります 11)12)。 母親の乳がん・糖尿病を減らし、先進国においても、児の感染症・肥満や過体重を減らし、経済的利点もあり、災害時に乳児の栄養を確保する手段となります。
アレルギーを発症していない、もしくはアレルギーのリスクのないお子さんに対しても、養育者が心配して混合栄養とし、母乳を摂取する割合が減少することが危惧されます。子どもや母親の健康という観点から、母乳育児の保護や支援は大切と考えます。
お忙しい中、お読みいただき感謝申し上げます。ご参考いただければ幸いです。
抜粋部分参考文献
8)WHO/UNICEF. Baby-friendly Hospital Initiative training course for maternity staff. 2020
https://www.who.int/publications/i/item/9789240008915
11) Victora CG, et al. Lancet Breastfeeding Series Group. Breastfeeding in the 21st century:
epidemiology, mechanisms, and lifelong effect. Lancet. 2016; 387(10017):475-90.
12) Rollins NC, et al. Lancet Breastfeeding Series Group. Why invest, and what it will take to
improve breastfeeding practices? Lancet. 2016; 387(10017):491-504
以上
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